仏マクロン政権が推し進めようとしている年金制度改革に反対する国鉄(SNCF)やパリ交通公団(RATP)労働者の無期限ストライキが38日目を迎えた1月11日、フィリップ首相が労働組合に歩み寄りを示した。年金支給年齢を62歳から64歳に引き上げる案などをいったん取り下げたのだ。その2日前には、全国各地で50万人が参加する決起集会が開かれ、年金改革に反対する世論が依然強いことを示した。
政府が唱える案は(1)42の職種に分かれている現在の制度を段階的に一本化(2)年金支給額の算出方法を従来の賦課方式から積み立てを基調としたポイント制に変更(3)年金受給開始年齢より早く退職する場合は受給額が減り、遅く退職すると増額――などを骨子としている。
世論調査で反対は62%に達し、12月5日から始まった交通ゼネストは、クリスマス休暇期間も継続され、同国史上最長となっている。フランスの社会保障制度は過去にも数回の「改革」が断行されたが、国民の多くは依然として社会保障制度の基本理念を社会的連帯と捉えている。
●安易な幕引きに反対
これまでのスト参加者は、航空パイロット・客室乗務員、医療・教育労働者から警察・消防職員やパリ・オペラ座のダンサーと多岐にわたる。現在、ダンサーは42歳で定年退職できるが、政府案が通れば、62歳までは月額千ユーロ(約12万3千円)の年金を受け取れなくなるのだ。
現行の年金制度を維持し続けると国の財政赤字は2015年に172億ユーロ(2兆1156億円)に達すると言われる一方、高齢者の貧困率が世界で最も低いフランスの年金制度は維持されるべきだという声も強い。
政府が示した今回の歩み寄りについて、穏健派のナショナルセンターCFDT(民主労連)やUNSA(独立組合全国連合)は一定の評価を示している。しかし、両労組に加入するSNCFやRATPの組合員は、安易な幕引きに強く反対しており、CGT(労働総同盟)やFO(労働者の力)と共に交通ストを継続する構えだ。
CFDT本部は03年の年金改革をめぐり、早々に政府と妥協したため、これを不満とする組合員が大量に離反し、CGTに流れたという苦い経験を持つ。
●交通ゼネスト拡大も
CGT鉄道労組のある幹部は「サンドイッチ(妥協案)を作るというのなら、パンとバターとハムすべてが必要だ」と、政府の部分的な妥協案に全く納得していない。今後、交通ゼネストを全ての輸送機関に拡大させる闘いを構築していく方針だという。(労働ジャーナリスト 丘野進)
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