第一勧銀総合研究所元専務理事で暮らしと経済研究室主宰の山家悠紀夫さんは、日本経済には賃上げとともに社会保障の拡充が必要という。その財源について、消費増税ではなく、法人税と金融所得への課税強化を強調。金融緩和に支えられた株高は「虚構」とも指摘し、力強い内需に支えられた国内経済への転換が必要と説く。
――社会保障は財源が問題になるといわれます
法人税をもっと上げていい。今は大企業と中小企業の2段階の税率になっているが、高い所得には高い税率を課す累進制に変え、もうかっている企業から取るべきだ。また、日本は金融所得が優遇されている。配当金や、株式の売却で得た所得には20%しか税がかからない。所得税は何億円単位の所得があると、少なくとも最高税率の45%がかかるが、金融所得だと20%で済んでしまう。大資産家や高額所得者から取れば、消費税を増やさなくても財源をまかなえる。
――法人税を上げると企業が海外に流出するといわれます
逃げていくというのは完全にうそだ。経済産業省が毎年、海外に進出している企業にアンケート調査を行っている。進出理由で最も多いのは「現地の製品需要が旺盛または今後の需要増が見込まれる」(68%)で、次が「納入先を含む他の日系企業の進出実績がある」(25%)。「税制、融資の優遇措置がある」(8%)は非常に少ない。
企業は、もうからない所にはいくら税金が安くても行かない。国外の方がはるかにもうけが大きから出て行く。「税金が安い」というみみっちいことでは動かないと考えるべきだ。
●「虚構の株価」
――第2次以降の安倍政権で雇用情勢は改善、株価は上がり、若い人は安倍政権支持だといわれます
民主党政権時代とは世界情勢が違う。当時は「ギリシャ危機」があり、世界経済は良くなかった。特に欧州経済が厳しかった。それによって相対的に日本円が買われ、一時は1ドル=75円にまで円高が進み、日本の輸出に大打撃を与えた。これは民主党政権のせいではなく、国際的な為替相場の動きがマイナスに響いたためだ。
原発事故もあった。これも民主党政権の政策でそうなったのではない。
それでも、政権末期の12年末には景気後退が終わり、景気は回復に動き始めていた。ちょうどその頃に第2次安倍政権が発足した。同政権は金融を猛烈に緩和する政策を行って円安に誘導し、株価が上がった。
――景気は下降局面なのに株価はなぜ下がらないのでしょう?
今は政府が、年金資金などの巨額の資金でしゃにむに買い支えているから、景気が下降局面でも株価は下がらない。株価は午前中に下がり、午後には上がる。午前は海外投資家が売り、午後は年金資金などのファンドが株価が持ち直すまで買い支えているからだ。何十兆円も使って買い支えられる「虚構の株価」だ。
実態経済が良くなってはいないから、株価はいつでも下がる可能性がある。景気が下降局面であることがはっきりすると株価は大きく下がるだろう。あるいは金融緩和政策をやめた途端に下がる。だから黒田東彦日本銀行総裁も金融緩和をやめられない。株式市場への投資額は膨らみリスクは一層大きくなっていく。
最近の株高は米国経済の繁栄にも支えられている。米国が悪くなれば下がるだろう。現在2万数千円の株価は1万円程度は下がる懸念があり、日本経済は非常に危うい状況にある。今こそ大幅賃上げと社会保障拡充による力強い内需に支えられた経済へと転換する必要がある。(インタビューは2019年12月9日)
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