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    〈働く現場から〉ウーバーイーツの青年と/ジャーナリスト 東海林智

     雇用によらない働き方を広げて行くという政府の方針。「個人の能力を最大限に活用して稼いでほしい」「自由に自らの時間の使い道を決められる」という売り文句を単純に信じる人はもはやいないとは思うのだが、こうした働き方はじわじわと広げられているように見える。

     

    ●日雇い派遣と似ている

     

     今年5月、2年半勤務した新潟県から東京に戻り、目に付いたのは、葛(つづら)のような四角いリュックを背負い、スポーツタイプの自転車などで駆け抜ける若者の姿だ。その彼らが、政府も勧める〃最先端〃スタイルの個人請負「ウーバーイーツ」で働く人々だと理解するには、そう時間はかからなかった。なぜなら、都心部では数分に一度と言ってもおかしくないぐらい、頻繁に姿を見かけるからだ。

     路上で止まっている彼らは、たいていスマホを凝視している。画面上で配達先を探しているのか、あるいは新しい仕事が表示されるのを待っているのか、ともかくスマホから目を離さない。話を聞いてみたいのだが、あまりにスマホを熱心に見ているので、声をかけることがためらわれた。ある日、意を決して取材を申し込んでみると、「ちょうど少し休もうとしたところだから良いですよ」と25歳の男性が応じてくれた。彼のことは継続して取材中なので、詳しいことはまた別の機会に書くつもりだが、彼の紹介で、あと何人かにも接触できた。

     話を聞いた印象は、「前にもこの話聞いたぞ」という、なんとも言えない既視感だった。もちろん、システムやそもそも雇用契約ではないからいろいろと違うのだが、派遣労働者から聞いてきた実情と重なる。特に、日雇い派遣で働いていた人とは、全体の構図がほぼ一緒なのだ。

     

    ●今は食えているが…

     

     彼によると、新しい働き方だと思いやってみたら、意外と稼げる仕事だった。気に入って働いていると、最初は良かったが、働き方がある程度定着して広がり、このスタイルで働く人が増えてくると、収入が下がり始めた。そうした中で、安全の問題、収入の不安定さなど、さまざまな不備が見え始めたという。日雇い派遣とウーバーイーツの働き手は同じ道をたどっているように見える。

     ウーバーの彼らはまだ食えているというが、同業者が増えると、数を多く運べば付与されるプレミアが下がり、数を重ねて運ばなければ、前と同じ収入は得られなくなったという。数を増やして無理をすれば、事故に遭う確率だって高くなる。だが、実際に事故に巻き込まれれば労災保険で補償されることもない。日雇い派遣は労働契約だが、労災隠しや労災逃れでつらい目に遭う労働者も少なくなかった。不安定な中で無理して仕事を受けるようになるのも一緒だ。

     

    ●将来不安と隣り合わせ

     

     最初に語ってくれた25歳の男性には、日雇い派遣との類似点を話した。すると彼は「最後はどうなるんですか」と聞くので、「不安定な雇用と収入で、住居を維持できなくなり、ネットカフェ難民になった人もいた」と正直に告げた。一瞬顔をしかめたが、すぐに僕の目を見てうなずいた。「分かります。自分も今の収入でいつまでアパートの家賃が払えるか不安です」と打ち明け、「でも」と続けた。「最低、スマホと自転車があれば日銭は入ってくる。ズルズルと続けてしまうんです」。冬になると寒さがこたえるので、働く人が減るのだという。「そうすれば、また、手取りは増えるかも」と淡い期待を抱いているのだという。(この話続く)