首里城が焼け落ちた。
1992年の正殿復元を含め、30年にわたった復元工事が今年完了したばかりだった。恒例の首里城祭のさなかで、世界文化遺産にもなっている組踊が初めて上演されて300年の節目の年に、正殿の前で当時を再現する組踊公演が予定されていた、まさに10月31日未明の発生である。その舞台も全て燃えた。
11月1日午前、沖縄県選出・関係の国会議員10人が超党派で衛藤晟一沖縄北方担当相に早期再建に向けた政府への支援を要請した。玉城デニー沖縄県知事も上京し、菅官房長官、衛藤大臣、赤羽国土交通大臣と相次いで会談した。関係大臣らはこぞって前向きの姿勢を示した。
●どんな形で再建するか
予想だにしない首里城焼失を受けて行政も民間もこぞって力を合わせるのは当然だ。しかし、警戒感も持たざるを得ない。
辺野古新基地問題を巡って沖縄県と政府は鋭く対立したままで、この間、対話らしい対話はできていない。火災の前日30日に沖縄県は国を相手取った訴訟の一つで上告手続きをしたばかりだ。沖縄関係予算を巡る国との折衝が本格化しているさなかでもある。
政府は2閣僚の相次ぐ更迭があり、任命者である安倍首相は野党の攻勢にさらされる。2人を閣僚に推した菅官房長官の求心力の低下も指摘されている。沖縄いじめの印象と支持率低下を和らげるために首里城再建は好材料かもしれない。
玉城デニー知事も、県の事業を委託した業者との正式契約の前日に、その業者と会食をしていたことが明らかになり、県議会で自民党などから百条委員会設置提案を含め執拗(しつよう)に攻撃されている。自民党はしつこく追及する構えで、知事を支える与党内から懸念の声が出ていた。
県、政府、国会議員らの素早い対応は当然と言えるが、迅速すぎる気もする。そもそも、92年の正殿復元時にも復元事業が政府主導であることへの反発が少なからずあった。今度の再建は、政府頼みではない形で、じっくり議論をすべきだという意見も、ちまたにはあふれている。
●辺野古基地建設は続行
火災の後すぐ連休になり、5日から政治も行政も通常日程に戻った。辺野古新基地の工事も続行されるだろう。県と国の間ではもう一つの裁判も進行中だ。お互いに「それはそれ、これはこれ」という対応になるのだろう。
沖縄県民は全国からの募金に感謝しつつ、首里城再建が政治的な思惑や駆け引きの材料にされてはならないと厳しいまなざしを向けている。(ジャーナリスト 米倉外昭)
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