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    〈米国ライドシェアの現実〉下/ギグ労働者とどう連携するか/問われる既存組合の路線

     ギグ労働者の運動に、既存の組合がどうアプローチして連携するかが今、問われている。大手組合のサービス国際労組と運輸労組のチームスターズもここ数年、ギグ労働者の問題に取り組むキャンペーン集団を米西海岸で立ち上げて、運動をつくってきた。資金力も動員力もある。カリフォルニア州のチームスターズは今春、ライドシェア運転手組合(LARDU)と接触し、活動資金を提供する代わりに、組織を丸ごと傘下に収めようとしていた。

     LARDUは数回の会談後、この申し入れを断った。同州のサービス国際労組とチームスターズは昨年からウーバーやリフトと協議を重ねていて、両社から「労働者性を問わなければ、運転手を代表する組合として両組織を認知する」とオファーされていたことが判明。大手組合に対する不信感を拭えなかったのだという。

     AB5法案をけん制する動きであることは明らかだったが、大量の新規組合員を獲得する絶好の機会でもあった。組合内でも意見は分かれた。その後、法案を支持する運動が大きく高揚したため、両組合の中央本部はこの話を水に流した。

     

    ●新しい運動を模索

     

     ウーバーは3年前、ニューヨーク市でも金属関係労組のIAM傘下の組合と同様の取引をした。当時はタクシー労働者連盟(NYTWA)が、ライドシェア運転手の求心力として台頭してきた時期だった。

     この取引で、労働条件の改善をうたう新しい団体が結成された。運転手が独立事業者であることは不問に付して団体協約を求めず、ストを放棄する代わりに会社から資金提供を受けている。「これでは御用組合だ」という批判は強い。しかし運転手の中には「一方的に解職された」と、処分の撤回をこの「組合」に求める者もいる。

     一方、NYTWAは昨年、運動を通じニューヨーク市で全米初のライドシェア規制条例の制定の実現にこぎ付けた。ハイタク労働者とライドシェア運転手が同じ仲間として闘って、この快挙を成し遂げた。

     労働組合運動の路線や労使関係のあり方をめぐる議論は今に始まったことでない。だが今日、それ以前に問われているのは、「雇用によらない働き方」が世界的に広まる中、既存の労組はどこまでそうした労働者と共に新しい運動をつくっているのかということだ。英国やドイツなど欧州各国でも、ギグ労働者の新たな運動集団を既存の労組が取り込もうとしてきた。同時に、生まれたばかりの新組織には、組合財政の安定化という大きな課題がある。

     

    ●大統領選挙の争点に

     

     AB5は新法として、来年1月1日に施行される。ウーバーとリフトなどは、9千万ドルを投じて反対運動を展開するとすでに宣告。法案を支持し署名したニューサム州知事だが、ライドシェア社との交渉を続けるという、含みを残した発言もしている。労働団体とテクノロジー産業の双方が同氏の支持母体なのだ。

     しかし回り出した歯車は、もう止められないのではないか。

     ロサンゼルス市議会のウエソン議長は最近、ライドシェア運転手の最低賃金を同市で30ドルにすべきだという動議を提出した。カリフォルニア州で制定された新法が他州に波及することは過去にも例があり、その動向が注視される。ギグ労働は、来年の米大統領選挙で、労働政策の争点になるといわれている。

     LARDUは、同州全域でライドシェア運転手を代表する組織へと躍進することを目指し、新たに運輸労組(YWU)と連携を模索中だ。ギグ労働者の闘いは同州に限らず、新旧の勢力が入り交じりながら、当面は紆余(うよ)曲折を繰り返して前進していくだろう。(労働ジャーナリスト 丘野進)

     

    〈用語解説〉AB5

     

     カリフォルニア州の労働法と失業保険法の一部を改正した法案の通称。近年インターネットを通じて単発の仕事を繰り返すギグ労働が広まる中で横行している偽装請負に歯止めをかけ、ギグ労働者の保護をめざす。ウーバーやリフトは、運転手を独立事業者として雇っているが、AB5はその定義を厳格化した。(1)会社の管理・監督下になく、(2)その通常業務の範囲外の仕事をしており、(3)同じ業界で独立して業務に従事している――ことをすべて証明できなければ、企業は労働者を従業員として雇わなくてはならない。最賃や傷病手当の適用を受けるため、ライドシェア運転手の場合、平均年収が約40万円増えるという試算もある。このため、企業側の反発は強い。その半面、多くのギグ労働者は低所得であり生活保護を受けるなど、政府の支出も大きい。今回の法改正は、企業側に応分の社会的負担を求めるものともいえる。州議会の両院を賛成多数で通過し、9月18日に州知事が署名。2020年1月1日に施行される。