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    〈インタビュー/日米貿易協定〉/ごまかし多く、メリットなし/アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子さん

     日米両政府が10月7日、日米貿易協定に署名した。日本は牛肉など農産物の関税を環太平洋経済連携協定(TPP)並みに下げる。牛肉は38・5%を段階的に9%にまで削減。一方、米国は自動車と自動車部品の関税を当面維持する。日本側の譲歩が目立つ内容だ。政府は国会承認を経て、来年1月の発効を目指している。この内容をどうみるか、貿易問題を監視しているアジア太平洋資料センターの内田聖子共同代表に問題点を三つ挙げてもらった。

     

    ●(1)脅しに屈した日本

     

     そもそも日本は米国と交渉する必要はなかったはずですよ。米国には「TPPに戻れ」と言ってきたし、言い続けるべきだったのではないですか。交渉に踏み切ったのが間違いです。

     日本は話し合う前から既に、米国の脅しに屈していました。自動車への制裁関税(25%)を回避することが唯一の目的になっていたと思います。そのために農産物やデジタルなど他の分野を米国に差し出す構図になってしまいました。

     政府は制裁関税の回避を評価し「ウィンウィンだ」なんて言っていますが、自動車についていえば現状を維持しただけ。この脅しは今後始まる第2ラウンドの日米交渉でも蒸し返され、再び日本が譲歩する構図になる恐れがあります。

     

    ●(2)撤廃率はまやかし

     

     今回の協定が実施された場合の関税撤廃率について、米側は92%、日本側は84%だといいます。でも日本の数値はうそっぱちです。

     日本の84%に含まれている自動車とその部品は除外すべきです。米側は今後撤廃すると約束しておらず「交渉次第」というスタンスです。私たちの試算では日本の撤廃率は59%にすぎません。

     なぜ日本が90%近い数値にこだわるかといえば、一つは国際貿易機関(WTO)のルールで90%程度が必要とされているため。WTOルール違反を避けようということです。もう一つは、あまりにも日本側にメリットがなかったという印象を国民に与えないためです。

     実際、日本側にメリットはあったのでしょうか。確かにTPPで米国に約束したコメの無関税輸入枠7万トンは今回見送られましたが、今後の行方は不透明。米国のコメ農家は不満を表明しており、大統領選挙を控えたトランプ氏がどう出てくるかは分かりません。

     

    ●(3)また国会審議軽視

     

     政府は10月半ばに協定案と関連法案を国会に提出し、10月中に衆議院を通す構えだといわれています。短時間の審議しか想定していないということです。

     TPP11の時は衆参合わせて10時間程度でした。今回もそれくらいでいいと考えているのでしょう。外務委員会などでの審議が予定され、農林水産委員会では扱わない方向。農産物の関税削減による影響をまともに議論しようという姿勢が見えません。いまだに影響の試算も公表されていないのです。国会軽視です。

     10月中の衆院通過と来年1月の発効というのは、米国が望んだスケジュールです。大統領選を意識しているのでしょうが、日本側に急ぐ理由はありません。日程までもが米国本位です。

     

    〈写真〉内田聖子さん