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    労働時評/20春闘構想できしみ/連合主要産別大会の特徴

     今夏行われた主要産別の大会では、2020春闘の構想をめぐるきしみや、職場活動の弱体化などの問題が官民で浮き彫りとなった。今年の論議の動向に焦点を当てた。

     

    ●春闘は「単組自決」へ

     

     春闘情勢の厳しさでは、米中貿易戦争や消費増税などによる「景気後退下の物価上昇」を懸念する点で共通している。しかし春闘要求や闘い方をめぐっては産別間できしみが聞こえる。

     10月の連合大会に提起される運動方針案では運動領域の見直しとして、これまで上位に置かれていた「社会的賃金相場の形成」を外して政策制度の課題に統合している。連合春闘の役割が曖昧になっている。

     そんな中、産別では自動車総連の高倉明会長が9月5日の大会前会見で連合の活動の見直しに言及。「春闘は産別責任」「連合は政策責任」の原点を強調。春闘の社会的相場づくりについては、連合ではなく産別の課題だとして、連合にはミニマムや非正規重視を提起した。金属労協は連合金属部門連絡会との連携を強化し、自動車は産別自決の方向を表明した。

     トヨタ労使は既に19春闘からベア統一要求を設定せず、定期昇給・ベースアップを非公開とする「単組自決」の自社型春闘の方向。高倉会長は経営側の「ベアより諸手当」論に対し「賃上げの旗は降ろさない」として絶対額を重視する方向だが、引き上げ水準は今後の検討課題としている。

     電機連合も産別統一闘争の見直しを検討している。「月例賃金など金銭的な処遇条件にこだわらず、各社労使で柔軟に決定」という経営側の意向への対応である。パナソニックグループ労連は昨年、「産別統一と一律回答の見直し検討」を主張。今年の大会では三菱電機労連が「賃金水準で産別指標の最上位水準を超えている組合は、賃金ではなく、退職金や両立支援充実の原資配分に一定の裁量を認めてもいいのでは」と、脱ベア・諸手当春闘を表明している。

     電機連合の野中孝泰委員長は「波及効果の最大化」へ統一闘争の強化を図るというが、経営側の「人への投資の柔軟性」にどう対応するのか、今後の動向が注目される。

     

    ●「上げ幅」を求める声

     

     連合は春闘改革で「上げ幅のみならず、賃金水準の重視」を提起している。しかし産別大会では異論も出されている。

     鉄鋼、造船などの基幹労連は9月3日の金属労協大会で「業種別組合の格差是正へ、賃金水準に加えて上げ幅にこだわった取り組みを」と発言した。

     フード連合も9月9日の大会で「中小の格差是正には水準だけでなく、上げ幅重視」を提起している。

     JAMは8月29日の大会で安河内賢弘会長が「スタグフレーションも懸念される日本の危機を乗り切るには賃上げしかない。連合、金属労協、JAMが経団連に厳しく対峙(たいじ)できるかが問われる」と強調している。

     UAゼンセンは9月10日の大会の事前会見で、松浦昭彦会長が「人材確保や消費増税による物価上昇などを考慮し、統一闘争を軸に実質賃金や可処分所得の向上を目指す」と表明した。

     連合の神津里季生会長は「春闘は強めることこそあれ、弱めることはない」と述べている。厳しい情勢下の20春闘でベア獲得へ連合の闘争力が問われる。

     

    ●新たな産別再編の動き

     

     連合の産別では組織上の新たな動きも見られる。

     連合は「人口減少・超少子高齢化社会ビジョン」検討委員会の最終報告をまとめた。報告では労働組合の将来について組合員の減少などの懸念を指摘しつつ、財政問題でも危機感を持った対処を提起している。

     JEC連合が連合内友好産別との連携に向けた協議を推進。既に昨年から紙パ連合と同じフロアで産別事務所を共有し、財政の効率化を図ったとしている。7月の大会ではゴム連合やフード連合とも連携を強め、連合への登録一本化を含む連携強化へ協議を行う方向を決めた。

     ソフトバンク労組(4500人)は情報産業のグローバル化や国の政策などを背景にJR総連を「卒業」(脱退)し、8月の情報労連大会で加盟が承認された。

     今後、人工知能(AI)化による産業構造や雇用構造の変化を背景に、組織再編として複合産別化も予測される。

     

    ●職場・組合活動で苦悩

     

     今年の大会では、職場の深刻な実情や組合活動の苦悩が出されたのも特徴だ。

     JAMの大会では会長らが地方と地協を回り意見交換する「総対話行動」を展開したところ、「単組役員の人材不足」「単組機能の低下」「組合不要論」「オルガナイザーの力量低下」などの課題が示された。打開へ向け、単組の執行部と組合員が一体となった組合活動や地協活動の強化が必要という。

     公務職場も深刻である。自治労の定期大会が8月に開かれ、人員不足と業務負担増の中で職場組織の弱まりが指摘された。秋の賃金確定闘争期に当局と交渉を行った単組は7割弱、執行委員会の毎月開催は3割弱、若手育成も成功していないなどと深刻だ。

     国公労連の定期大会(8月)でも、定員削減と業務量の増加により、職場役員の配置など必要な体制がとれず、地域の共闘にも影響が及ぶと訴えられた。

     職場活動の弱体化は労働運動全体の力量低下にも連動している。浅見和彦専修大学教授(労使関係論)は、職場を個別の労使関係だけでなく、「地域」「産業」「政策・政治」のトライアングルとして捉える運動が重要だと提言している。(ジャーナリスト・鹿田勝一)