国際芸術祭あいちトリエンナーレ2019の展示企画の一つ、「表現の不自由展・その後」が中止になった問題で、愛知県が設置した検証委員会は9月21日、国内フォーラムを名古屋市内で開いた。委員会は展示経緯や運営組織について報告。出品作家らは展示再開を要望した。同展示では、従軍慰安婦をモチーフにした「平和の少女像」などが抗議の的になっていた。
京都大学大学院教授の曽我部真裕委員は「表現の自由は、誰もがその人らしく生きるために不可欠だ。大事にしなければ社会の多様性、民主主義社会は維持できない」と強調した。単に不快というだけでは規制できないと指摘し、「マイノリティーや多様性が自由に表出されることが重要。公立美術館だから政治的なものは駄目、とは言えない」と語った。
文化政策研究者の太下義之委員は、抗議内容を報告した。「死ね」「ぶち殺すぞ」などの脅迫を含む電凸(電話による攻撃)は約4千件、メールは約6千件に上り、会場以外にも小中学校などへの放火予告があったという。「不正確、断片的な情報がSNSで拡散し、〃祭り〃に転換していった」と分析。抗議電話が集中した結果、ソフトテロになったと結論づけた。
●少女像はパネルに変更?
慶応大学教授の上山信一副座長は「平和の少女像」の展示経緯を報告した。大村秀章トリエンナーレ実行委員会会長(愛知県知事)らは、「平和の少女像」をパネル展示に代えるよう、2回にわたって提案したものの、不自由展の実行委員会は事実上、受け入れなかったという。最終的には津田大介芸術監督が実物の展示を判断した。
上山副座長は「リスク回避のポイントはパネル展示の提案だったはず。結果的に芸術監督と実行委員会を中心に作品決定などが行われ、(展示部門の専門職である)キュレーターチームがあまり関与しない形で進んだ」と批判した。
●「一日も早い再開を」
参加作家88人が不自由展の展示中止に抗議し、連名で声明を発表。展示を中止もしくは変更した作家は14組で、展示作品の2割に上る(24日現在)。太下委員は「この問題にどう対処するか、世界中が注目している。(対処の内容によっては)今後国内で開催される国際芸術祭への出品拒否の可能性もあるのではないか」と懸念を示した。
不自由展に出品した作家らも発言した。
国家を題材に作品を制作している小泉明朗さんは、天皇は避けて通れない問題だとする。皇室カレンダーの写真から皇族の姿を消して影だけを描いた作品「空気#1」を東京都現代美術館の展覧会に出品しようとしたところ、学芸員に難色を示されたという。
「みんなが意見を言える場所が美術館だ。一日も早く不自由展を再開して、ゆたかなコミュニケーションの場を作ってほしい」と述べ、実行委員を含め、市民との対話の機会を要望した。
アーティスト集団Chim↑Pom(チン↑ポム)の映像作品「気合い100連発」は、東日本大震災で被災した福島の若者たちが円陣を組んで「自衛隊ありがとう」などと叫ぶうちに盛り上がり、「福島最高、放射能最高」と叫ぶ内容だ。作品に台本はなく、若者たちのありのままを表現した。バングラデシュの展覧会に出品しようとしたところ、スポンサーから放射能や福島の文言をカットするよう促されたという。メンバーの卯城竜太さんは「見る権利を奪われれば、知る権利がなくなり、自分で考えることができなくなる。表現の自由はアーティストだけのものではない。(全ての展示を再開して)何が問題か考えてほしい。僕たちと一緒に(表現の自由を)皆さんの手で取り戻してほしい」と呼びかけた。
●市民の意見はさまざま
フォーラムでは傍聴した市民も発言した。
元教員の男性は「芸術は子どもが自由な考えを学び、生きる力を養う。中止の経緯を子どもたちに説明するのは難しい。大村会長や津田監督、実行委員も一緒に、(フォーラムで)話し合う方がよいのではないか」と提案した。
女性は「中止に驚いている。検証委員会には再開判断の権限はないというが、会期は10月14日まで。時間がない」と訴えた。
一方、高齢の男性は「検証委員会(の議論)にはうんざり。(作品は)表現の自由と憲法を利用している。こんなものは芸術ではない」と発言。他の参加者からも展示に批判的な声が上がった。
〈写真〉終了後、参加者からの批判的な訴えに応える津田大介芸術監督(9月21日、名古屋市内)
〈写真〉自身の作品を説明する小泉氏。作品を見て議論してほしいと訴えた(9月21日、名古屋市内)
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