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    労働時評/潮目が変わる最賃闘争/格差縮小と全国一律へ動き

     地域別最低賃金が10月から改定される。東京、神奈川が初めて時給1000円を超えたほか、最賃改定で賃上げとなる労働者も13%以上へ広がる。問題は地域間格差と水準の低さだ。かつて格差縮小を目指して全国一律最賃を実現したフランスや各国の中小支援策も参考に、潮目が変わる最賃闘争に焦点を当てた。

     

    ●影響率20%超の地方も

     

     今年の改定は、安倍首相による4年連続の3%程度増方針を踏まえ、早期に平均1000円をめざすとした上で、初めて「地域間格差に配慮」も提起し、引き上げ水準が注目された。

     しかし、改定は昨年より1円増の27円、平均901円(3・09%・昨年3・07%)で、昨年並みの引き上げにとどまった。しかも901円を超すのは7都府県のみで、700円台が17県もある。

     改定目安は東京などAランクが28円、静岡などBランク27円、北海道などCランク26円、高知などDランク26円だ。目安を上回ったのは福岡、岩手など19県で1~3円を上積みした。最下位だった鹿児島は目安プラス3円の29円増で790円。地域格差も224円から223円へ、16年ぶりに縮小した。

     前進面は、最賃で賃金が引き上げられる影響率の拡大だ。昨年は13・8%で7人に1人に影響したが、今回はさらに拡大する。地方では神奈川が25・6%、青森21・6%、大阪19・4%など4~5人に1人に影響し、正規、非正規労働者の賃上げに連動する。

     公務員賃金にも影響し、人事院勧告で高卒初任給の時給換算897円は最賃平均901円以下となり、賃金是正が求められている。

     

    ●平均賃金の60%目安へ

     

     最賃が平均900円台になったとはいえ、先進国の最賃は1000円台であり、日本の水準は低い。

     国際比較(19年1月)では、オーストラリア1306円、フランス1244円、オランダ1147円、ドイツ1113円、英国(21歳以上)1017円などである。

     日本の最賃は平均賃金との関係でも低水準である。規模30人以上は平均賃金の43・6%(厚労省資料)。国際比較(14年OECD)では、賃金中央値の比率でフランス61%、ニュージーランド60%などだ。

     メディアも最賃水準で平均的な賃金(中央値)の「60%が分水嶺」(日経新聞6月20日)と報道し始めた。「先進国は6割をめざしている」(神吉知郁子立教大学准教授)などの提言も見られる。

     全労連がめざす「全国一律最賃制」では正規賃金中央値の60%を下限とし、19道府県の最低生計費調査を踏まえて1500円を求めている。連合も94年に「一般労働者賃金の50%水準へ接近」を打ち出した。平均賃金の60%は世論の支持を得られる水準といえよう。

     国際労働機関(ILO)の最賃条約は水準について「国内の一般的標準賃金」「労働者の団体協約の賃上げを参酌」と規定。組合の賃上げを低賃金層に連動させることを想定している。

     

    ●かつて全国一律を展望

     

     地域間格差是正は今や与野党、労働界を含む大きな政治課題になっている。

     現在の中央最賃目安と4ランク制には歴史的な経緯があり、全国一律最賃制をめざした運動と関わっている。国民春闘として75年3月に総評、同盟など労働4団体と社会党、民社党、共産党、公明党の4野党が全国一律最賃共同法案を提出。スト闘争が不発に終わる中、政府は「全国一律最賃法案を重要参考資料」として中央最賃審議会で審議し、「全国的な整合性」を踏まえた中央の目安制度を新設した。

     総評などは目安制度に反発しつつも、4ランク制が実施される78年、地域格差の縮小を目的に全国一律最賃を実現したフランスなどに調査団を派遣。フランスでは1950年の11地域から段階的に9地域、6地域、4地域、2地域へと縮小し、68年のストで全国一律に一本化させた。

     調査報告書は「フランスの経過からは、日本もここ数年とか中期的に地域最賃の改定闘争を発展させ、全国一律一本にもっていく」と展望していた。英国は低賃金層を対象にした最賃から、99年に全国一律最賃となり、請負など非雇用就労者も実態に応じて最賃を適用しているのが特徴だ。

     日本はランク制施行から41年。地域格差は限界と矛盾を深め、いまや格差是正は政治課題となっている。自民党も最賃の低さによる人材流出や外国人労働者の確保などを背景に最賃一元化推進議員連盟を発足させた。参院選ではほぼ全政党が最賃改善を掲げ、321自治体も全国一律を含む意見書を採択、「地方の乱」が起きている。

     地域格差を解消させつつ、全国一律最賃を実現するチャンス。全労連は法改正とランク解消に関わり、5年程度の経過措置で全国一律最賃の実現をイメージしている。

     

    ●桁違いの中小企業支援

     

     最賃闘争の前進のためには中小企業の支援策強化が重要となっている。

     現在の最賃支援制度は業務改善助成金が約7億円と少額だ。人事評価制度助成金なども生産性向上が前提とされ、経営側からは使い勝手が悪いとされている。

     フランスでは社会保険料の使用者負担軽減などで約2・3兆円、アメリカも社会保障費の据置き、韓国では飲食店の付加価値税の負担軽減などがある。

     日本では直接的な資金支援や公正取引の実現も課題。世界で地域別に最賃を設定するのは9カ国に過ぎず、59カ国が全国一律だ。国際標準の全国一律・水準到達が今後の最賃闘争の課題といえる。(ジャーナリスト・鹿田勝一)