昨年12月に成立した改正水道法が、今年10月に施行されます。水道事業にコンセッション方式(民間企業への運営権売却)の導入が可能になります。既に準備を進めてきた宮城県をはじめ、自治体がどう判断するかが今後の焦点です。しかし、先進国では民間に任せたことで料金値上げなどの弊害が明らかになり、再公営化の流れが広がっています。安易な「民営化」には注意が必要でしょう。
●世界の流れは再公営化
トランスナショナル研究所(オランダ)の調査によると、2015年時点で水道事業を再公営化した自治体は267。そのうち106自治体がパリ市を含むフランスです。
パリ市では1985年にベオリア社とスエズ社という2大多国籍企業に運営権を売却。その後、25年を経て再公営化しました。水道料金が約2・7倍に高騰したほか、水道事業の財務状況が不透明になるなどの弊害が明らかになったためです。現在は、百パーセント公営のオードパリ社が管理・運営しています。
パリ市の再公営化が比較的スムーズだったのは、コンセッション契約(25年)が切れるのを待ち、再契約を拒否したことで、違約金を発生させなかったことが大きいといわれます。
ドイツのベルリン市は30年契約の途中で再公営化に踏み切ったため、違約金が発生。2014年に受託企業から運営権を買い戻すのに市は13億ユーロ(約1690億円)の支払いをせざるを得ませんでした。
英国では、1989年に水道事業を完全民営化しました。約30年を経て、水道事業会社は巨額の利益を上げる一方、税金を払わず、水道料金を引き上げてきたといいます。18年の世論調査では約9割が水道の再公営化を要望。野党労働党は水道をはじめとする公共的なサービスの再公営化を公約しています。
●問われる自治体の判断
こうした欧州の経験を日本でどう生かすかが問われています。焦点は「民営化」の是非ではなく、どういう形の公営が望ましいかです。パリ市の再公営化では、住民が管理・運営に参加する新しい形式を採用し、料金値下げなどの実績を上げています。
日本の自治体が安易にコンセッション方式採用に走らないよう、住民による監視が必要です。
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