知的障害者入所施設の津久井やまゆり園(神奈川県)で、元職員が障害者19人を殺害した事件から3年がたった。「障害者は生きる価値がない」とする被告の動機が社会を震撼(しんかん)させる一方で、乏しい予算や人手不足を背景に、入所者の管理を優先する閉鎖的な大型施設の弊害も浮き彫りになった。こうした問題を考えようと、障害者などが開いた「津久井やまゆり園事件を考え続ける対話集会Ⅱ」(7月28日、神奈川県内)から二つの報告を紹介する。
●地域社会で自由を実感
平野由香美さんの息子、和己さん(29)は、重度知的障害者だ。物を壊したり暴力を振るったりする行動障害があり、障害支援区分は6で最も高い。成人して、やまゆり園に入所したが、園での活動は絵画や散歩が週に1、2回程度で、外出もほとんどなかった。
和己さんは事件後、実家や別の施設を経て、やまゆり園の入居可能な棟に戻った。由香美さんが会いに行くと、和己さんのコートには尿の臭いが染みついていた。室内を確認したいと言うと、「刺激に弱い人ばかりだから」と断られた。
「がくぜんとした。臭いの理由を何度尋ねても、職員は『さあ』と言うだけ。本を差し入れたら、他の人の刺激になると言って、そのまま戻される。そういうことが耐えられなかった」
入所施設が和己さんのついのすみかではないと考えていた由香美さんは、グループホーム(GH)での地域生活を準備した。和己さんは昨年5月末にやまゆり園を退所。GHで生活を始めると、日常は劇的に変化したという。週4日は作業所にバスで通勤し、発泡スチロールのリサイクル作業で働いている。土日のいずれかは、ヘルパーとテーマパークやレストランへ遊びに行く。苦手だった会話も増え、同僚と冗談を言い合うほどだ。
「施設では絶対に得られなかった生活だ。ストレスもなく、楽しんでいる。親も本人も、普通に暮らし、生きていると実感したい」と語った。
入所施設のあり方については「施設の外、地域へ出られればいいが、自由がない。息子にとってやまゆり園は刑務所みたいなもの。よく我慢したと思う。入所施設の実態を知らない保護者もいるのでは」と指摘。障害当事者が少しずつ地域に出て行けば、社会も変わっていくと訴えた。
●目標ある再建計画を
厚生省障害福祉課長(当時)を務め、GHを推進してきた元宮城県知事の浅野史郎氏は、やまゆり園の再建計画を批判。計画は建物の再建についての内容で、100人規模の施設に変わりはないという。以前と同様、入所者の管理に終始するのではと懸念を示した。
「人手が少なく、暴れると困るからといって、入所者に強い睡眠薬を飲ませるような仕事では、職員も嫌になる。だから植松聖被告は、『障害者は生きている価値がなく見えた』と言った。施設運営者はそのことに気付くべき」と怒り、このままでは再び事件が起きかねないと警鐘を鳴らした。
その上で、「施設は昔、精神薄弱者入所更生施設といった。英語で言えばリハビリテーション。リハビリで自分の(身の回りの)ことができるようになり、施設から地域に出て生活するという目標を利用者も施設も持つべきだ」と強調。利用者、職員、地域、施設のそれぞれについて、目標を示した運営再建計画を策定し、やまゆり園が入所施設の体質を変えた先例になるよう、改革を求めた。
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