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    インタビュー/安全衛生の視点から規制を/教員の長時間労働/松丸正弁護士に聞く

     教員の過労自死事件で、時間外労働を事実上の業務と認め、校長が安全配慮義務を怠ったとして自治体の責任を厳しく問う判決が出た(本紙14~15ページ)。判決は教員の長時間労働是正に影響するのか。教員の過労死事件に詳しい松丸正弁護士に話を聞いた。

     

     ――福井県の町立中学校の新任教員が月100時間を超える残業の末、健康障害が生じて過労自死した事件で、福井地方裁判所は県と町に損害賠償(国家賠償)を命じました。

     教員の心身の健康を守るという視点に立ち、県と町の責任を認めた画期的な判決です。この裁判では、長時間労働や新任者への心理的負荷などが心身の健康に与える影響、つまり業務の過重性や健康障害が争われました。

     公立学校の教員は「給特法」が適用されるため、特定業務以外の残業は自主的活動とみなされています。県と町は、残業は自主的活動であり、長時間労働や時間外勤務と管理者(校長)は関係がなく、責任は問われないと主張しました。

     判決は、残業の自主的な側面を否定しないものの、基本的には教員の仕事として必要な業務を時間外に行っていたのであり、自主的活動の範囲とは言えないとしました。残業代を争った、これまでの判決とは異なる時間外労働の位置付けです。

     その上で、長時間労働などによって心身の健康を損なう可能性があり、校長が残業を明示していなくても、安全配慮義務を負わないことにはならないとし、自治体の責任を認めたのです。

     ――公立学校の教員による残業代請求の裁判は、残業は自主的活動だとして敗訴しています。

     労働法から見れば、部活や授業準備も全て自主的活動とみなしてきた行政の主張や裁判所の判断は非常識です。給特法があるから、残業代の問題は決着済みだという姿勢なのでしょう。

     今回の裁判は残業代請求ではなく、健康障害の問題であることが大きな違いです。給特法では自主的活動のはずの残業時間も管理しなければ、安全配慮義務で自治体の責任が問われます。

     学校は今、働き方改革でタイムカードの導入が急速に進み、教育界の常識が大きく変わろうとしています。そのような流れの中で、判決が職場に与える影響は決して小さくありません。健康の視点から勤務時間の管理が促され、長時間勤務の規制につながることが期待されます。

     ――文部科学省の調査では、残業が月80時間以上の過労死ラインを超えている公立中学校の教員は約6割に上りました。

     職種別に見ても、公立学校教員の過労死・過労自死事件は多く、教育に尽くして亡くなった教師のかがみだという美談に終始することさえあります。どのような構造の中で長時間勤務から健康障害が発生し、誰に責任があるのか、本質的な議論が置き去りにされています。

     現在のような長時間労働を教員がやめれば、部活はなくなり、授業の質も下がるでしょう。教員の心身の健康が壊れるか、それとも教育が壊れるか――事態は二律背反に陥っています。

     ――長時間労働の解消に向け、労働組合が取り組むべき課題は?

     組合には、在職死亡の一斉調査を行って長時間労働の有無などを率先して調査していただきたい。個人情報の扱いには注意が必要ですが、公務災害の申請は遺族にとって大変な作業です。年間約5千人に上る長期療養者も調査できれば、生の声から勤務実態を知ることができます。労働災害や職業病の専門知識を持ち、特化して取り組む役員や職員が組合に1人でもいてほしい。

     約40年前にタクシー運転手の在職死亡が増え、組合が全国一斉調査に乗り出しました。その結果、複数の労災が認められ、運輸省(当時)は1981年に「運転者の健康状態に起因する事故防止について」という通達を出しています。

     教員に限らず、健康を損ね、命を奪いかねない長時間労働は絶対になくさなければなりません。しかし、労基法改正では、過労死ライン並みの時間外上限が設定されました。これでは人間らしい生活を営むことはおろか、命を保つことができる程度で、最低レベルの労働条件になってしまう。だからこそ、労働組合が過労死やメンタル疾患の予防を本格的に取り組むかが問われているのです。