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    インタビュー/〈どうする最低賃金〉(6)/エビデンスに基づく審議を(上)/山口最賃審の前公益委員 松田弘子弁護士

     最低賃金の改定審議の改善を訴えている前公益委員がいる。山口地方最低賃金審議会で委員を今年春まで7年間務めた松田弘子弁護士だ。「改定審議は形骸化している。エビデンス(根拠)に基づく審議が必要」と主張。審議が非公開とされている現状についても「知る権利の侵害だ」と是正を訴える。

     

     ――任期を振り返っての感想は?

     松田 委員就任は、任期途中に辞められた前任の弁護士に頼まれて引き受けたのがきっかけ。審議に関わっているうちに最低賃金の大切さを実感した。でもその割に審議は形式的で、意見を言う人は煙たがられる。何も言わずに帰る人が好まれる席なのだということが分かった。

     どの回も労働局が作成したシナリオがあり、公益委員と事前の打ち合わせをしていた。そこに書かれていた「異議なし」の記載通り、実際の審議でも「異議なし」との発声があり、事前に事細かに決めていたようである。最初はこれが最賃の改定審議なのかと大変驚いた。

     さらに驚いたのが、引き上げの根拠となる資料がないことだ。「生活保護を上回っている」というが、比較方法に関する説明はない。経済情勢など、立派な資料はたくさん用意されるが、最低限必要な生計費の指標が全くない。

     あるべき水準が議論されないまま、第2次安倍政権発足後の2014年以降は毎年目安通りに決まっている。こだわっていたのはせいぜい、同じCランクの岡山に追いつきたいということぐらい。それもかなわないでいるのだが。

     ――地方最賃審は必要?

     今のあり方だと地域別最低賃金については必要ないと思う。中賃がしっかり決めるか、全国一律にすればいい。特定最賃をどう扱うかによる。

     最賃が「労働者の生活の安定」「労働力の質的向上」の要請を満たすためには、非正規労働者などの実情を調査する必要がある。山口の実情をつかむために1年間かけて県内をくまなく回り、調査・研究を行ったり、健康で文化的な生活を送れる最低限の生計費を積算したりするならば話は別だ。厚生労働省と山口労働局がそういう作業をきちんと行うのであれば必要だろう。

     山口での最低生計費がどのぐらいの水準であるべきか、中小零細企業の状況はどうか、引き上げる時と引き上げた後、この二つの影響調査が必要だ。使用者側は「経営が厳しい」と根拠もなく相場観のような話ばかりしている。そんな審議ならば意味はない。

     昨年の審議では、最賃近くで働く人が多い県内かまぼこ製造工場への視察を労働局が提案した。だが、対象になった会社は、低賃金という印象を与えるのを嫌い拒んだという。そりゃそうでしょう。そんな付け焼き刃ではなく、国の責任で大規模な調査をするべきだと思う。

     ――委員の日当は?

     出席謝金という名目で、1回につき税込み1万7700円。形骸化したセレモニーのためにこれだけの支出が必要か、今となって考えると悩ましい。(つづく)