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    労働時評/新展開のAIと労働運動/電機連合などが政策提起

     電機連合が7月の大会で人工知能(AI)と労働について「第4次産業革命と電機産業の飛躍」と題する産業政策を発表した。厚生労働省もAIの雇用への影響について中間報告をまとめ、連合は非雇用就労者の組織化へ「ネットワーク会員」構想を打ち出した。新展開をみせるAIと労働運動の動向に焦点を当てた。

     

    ●新技術に対し産業政策

     

     電機連合は他産別に先駆け、AIやIoT(モノとインターネットの結合)、ロボットなど第4次産業革命やソサエティ5・0(政府が提唱する新たな社会人)による職場と、働き方の変容に対して産業政策を策定した。

     AIと産業構造の変化では、異なる産業をつなぐ新たなサービスが生まれると予測。電機産業は通信、電力、輸送などの異業種交流で重要な役割を担うと指摘し、電気自動車(EV)や自動運転カー、遠隔医療、遠隔教育、電子行政、農業、防衛システムなど新たな事業を示し、他社との協働の構築を挙げている。

     職場や働き方の変容では、「設計・開発」「製造」など従来の専門分野についても、新たな「サービス事業者」の見識・能力が求められるとして、人材の育成・確保を重視している。

     新技術導入による幅広い分野での職種減少と新たな仕事への転換も予測。シェアリングエコノミー、個人請負、雇用関係によらない就労者の増加も挙げている。AIなどに代替される労働者と、新たな付加価値を生み出す者との「所得の二極化」も指摘した。

     新技術導入に当たっては雇用確保などの「生産性三原則」を踏まえ、事前労使協議や公正な成果配分を確認するよう提起。労働移動や雇用形態の変更に対するセーフティーネットの整備のほか、情報のセキュリティー対策強化も指摘する。そのための政府や産業界などへの働きかけ項目を一覧表(表)にしている。

     UAゼンセンも「革新的新技術導入に向けた労使確認(例)」を策定。ロボット、AIなど新技術の導入を前提に、生産性三原則の再確認などを決めている。19春闘では11組合が要求し、2組合が労使協議などで一定の合意を得た。人材育成では26組合が要求し、8組合が労使合意の成果をあげている。

     

    ●集団的労使関係が重要

     

     厚生労働省の労働政策審議会労働政策基本部会は6月、AIなどの新技術が雇用・労働に及ぼす影響について報告書をまとめた。同部会には古賀伸明前連合会長も参加している。

     報告書は、AIなどの導入には「労使のコミュニケーションを図りながら進めること」とし、労働組合が無い職場でも「労使のコミュニケーションの在り方について議論を深める」と明記するなど、集団的労使関係の重要性を示唆しているのが特徴だ。

     雇用移動に関しては、スキルアップ(技能向上)・キャリアチェンジ(転職)の支援や、技術革新に対応できない労働者への就労支援、「働く場」の確保などセーフティーネットの強化を挙げている。

     厚労省の「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」も中間整理を6月にまとめた。検討課題に優先順位を付け、発注者による契約条件の一方的変更や報酬の支払い遅延といったトラブルに対し、契約条件の書面明示や報酬支払い・報酬額の適正化などをあげている。

     仕事による負傷に対しての支援なども優先的に取り組むべき課題とし、労災保険の一人親方など特別加入制度の活用も例示している。

     雇用類似就業者の法的保護の必要性については、2018年3月の別の検討会報告書で提起。「諸外国の議論も参照」しながら、労働者概念を広げ、「時間的・場所的拘束性」「報酬の労働対価性」「経済的従属性」などを課題とした。労働側は「労働協約の拡張適用」を求めている。

     今回の中間整理では「発注者との集団的な交渉」にも触れ、「労働組合法上の組合となれば、交渉なども可能であり、独占禁止法の対象にならない」とした。しかし労働者概念の拡大については「継続的な検討課題」にとどめている。フランスなどでは既に立法による労働法の適用拡大や裁判例も見られ、日本も早期の法的保護が求められている。

     

    ●ネットワーク会員構想

     

     連合は雇用類似の就労者や個人請負など雇用形態の多様化に対応した組織化を推進するため、連合外の人と緩やかにつながる「ネットワーク会員」(仮称)を新設し、労働者性の拡大や共済利用の仕組みを構想している。結成30年を迎える10月の連合大会に提起する方向だ。

     非雇用就労者の組織化では既に全国ユニオン(連合加盟)が、東京でクラウドソーシングの宅配サービスを展開するウーバーイーツを対象に「ユニオン準備会」を発足させた。ある青年は料理の宅配に従事している時、交通事故にあったが個人請負を理由に労災保険が適用されず、就労を断念したという。

     ウーバードライバーの組織化では、イギリス独立労働組合(IWGB)がベルギーやオランダで組合員を拡大している。5月には、米国や英国の関係組合を中心に、労働条件の改善などを求めた国際ストも広がりをみせた。

     

    ●労働法制の破壊阻止へ

     

     経済産業省はAIなどの第4次産業革命により、30年度までに735万人の雇用が減少すると試算。大量の労働移動や労働法制が適用されない非雇用就労者の増大は、労働法制の破壊にもつながりかねない。9月からの労働政策審議会の審議を含め、新技術導入と労働者保護へ労働界の共同行動が重要である。(ジャーナリスト 鹿田勝一)