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    12年・15年改正内容の見直しへ/労働者派遣法めぐる動き

     労働者派遣法の見直しに向けて、厚生労働省の労働政策審議会が動き出した。企業にとって派遣労働の永続的な活用が可能となった2015年改正と、規制強化にかじを切った民主党政権時の12年改正について、施行状況の確認と一部見直しの検討を行う。これとは別に、働き方改革関連法による「同一労働同一賃金」ルールも来春に施行される。

     

    ●日雇い派遣が焦点に

     

     労政審・労働力需給制度部会は6月、改正法の施行状況を把握するフォローアップ作業を始めた。

     15年改正では、派遣元に義務付けた派遣労働者の「雇用安定措置」や、個人単位で一律3年の派遣受け入れ制限、計画的な教育訓練が定められた。まずはその施行状況を把握する。

     さらに、12年改正に盛り込まれた(1)日雇い派遣原則禁止(2)グループ企業内への派遣に対する規制(3)マージン率の公開(4)離職した労働者を1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止――といった規制も検討対象に挙げている。

     最大の焦点となるのが日雇い派遣に関する規定だ。現在は30日以下の派遣は原則禁止され、例外的に通訳やシステムエンジニアなどの職種と60歳以上の高齢者、年収500万円以上の人の副業就労などが認められている。政府の規制改革会議が6月にまとめた答申は、年収要件を緩めるよう求めている。

     このほか、見直しの対象として、派遣先の団体交渉応諾義務や、特定目的行為(事前面接)の禁止義務化など労働側が求めるものも列挙されているが、先行きは不透明だ。

     

    ●労使協定という抜け穴

     

     派遣法をめぐっては、見直し作業とは別に、働き方関連法による「同一労働同一賃金」ルール(派遣労働者版)の来春施行にも注意が必要だ。

     働き方関連法では賃金、手当、福利厚生について、派遣先の労働者との均等・均衡が初めて法制化された。一方、派遣元の「過半数代表」と会社が労使協定を結べば、この義務を免れる「抜け穴」も設けられた(労使協定方式)。協定の賃金額が、同種の業務の労働者の「平均的な賃金」を超える必要があるとし、その水準は厚労省が毎年6月頃に示す。

     均等・均衡を図る場合、派遣先は、職務内容などが同じ労働者の賃金、待遇の情報を派遣元に提供しなければならない。

     雇用の調整弁として利用したい派遣先にとって、情報提供を強いられるより、労使協定方式を採る派遣会社と契約を結ぶ方が安上がりで済む。派遣会社間で顧客獲得競争をする中、労使協定方式に傾くのは自然な流れといえる。

     

    ●ツケ回しは誰に?

     

     労使協定方式の問題の一つは、厚労省が定める「平均的な賃金」が著しく低いこと。もう一つは、派遣労働者の声を代弁する過半数労働者が選ばれない可能性が高いことである。

     厚労省が昨年試算した「平均的な賃金」の中には、最低賃金未満の職種もあった。派遣先が変わるごとに、最低値を適用することに規制はない。現在平均以上の賃金で働く派遣労働者にとって、賃金の下方圧力となることが心配される。

     過半数代表をどう選ぶかについても未整理の問題が多い。さまざまな職場に点在する派遣労働者の意思をどう反映するのか、登録しながら就労していない人をどう扱うのか、派遣会社の内勤社員が代表になることは妥当か、などだ。

     そうした課題を十分検討せずに働き方関連法成立を急いだツケが、来春以降派遣労働者に回ってくる恐れがあり、注意が必要だ。