「働き方改革」に関連する課題について、このほど厚生労働省内の複数の検討会が報告書をまとめました。雇用の流動化や非雇用化へ誘導する、働き方改革の「裏メニュー」の具体化が進んでいます。
複数の職場で働く際、現行の厚生労働省通達では、労働時間を通算して時間外割増手当を支払わなければなりません。政府が副業・兼業の推進に転じたことから、副業・兼業の労働時間管理のあり方に関する検討会が現行通達の見直しを検討していました。
7月9日に発表された報告書は、使用者が副業する労働者の労働時間を管理する上で、働き手の自己申告に頼らざるを得ない点を問題視。上限規制と割増規定については現行通達を見直し、労働時間を通算しないとの選択肢を示しました。
これにより上限規制が月100時間未満だったとしても、副業先で働けば、それ以上の残業が可能になります。
三重労働局伊賀労働基準監督署は6月、二つの運送会社で働いた労働者の労働時間を通算し、法定労働時間を超える残業をさせたとして、両社の代表取締役らを労働基準法違反容疑で書類送検しました。代表取締役は同一人物でした。
このように、別会社で雇用する形にして、残業上限規制や時間外割増規制を逃れる悪用が懸念されます。
政府の規制改革会議も6月、通算規定の改定を答申。この問題は今後労働政策審議会に議論の場を移します。
●労働者保護は二の次
副業・兼業で多いのが、個人事業主として働くケースです。働き手に残業上限規制や時間外割増規定は適用されません。最低賃金法や労災保険法の保護を受けず、会社の社会保険料負担や一時金、退職金も不要です。
技術革新の進展に合わせて昨年始まった「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」が6月、中間報告をまとめました。
それによると、契約条件の書面表示や報酬支払いの適正化を優先課題とし、労災、突然の仕事打ち切りなどの切実な問題は別に検討すべきとしています。保護を受ける労働者の概念を広げる検討は先送りにしました。
非雇用化を進めるための最低限のルールを設けるだけで、就労者の保護については及び腰の感が否めません。
●企業のための総仕上げ
働き方改革関連法の施行後、中西宏明経団連会長や豊田章男トヨタ会長らが相次いで終身雇用に否定的な発言を行いました。
そのかぎとなるのが、厚労省の検討会で検討している「解雇の金銭解決(救済)制度」です。解雇された労働者が裁判を起こし、「違法解雇」判決が確定した後、使用者が解消金を支払って雇用を終了させる仕組み。
狙いは、違法解雇をした使用者にとっての「予見可能性」を高めることにあります。解消金の上限や基準を定め、「裁判せず相場の6割を支払う」などと、低い水準の金額を飲ませることで、早く、安上がりなリストラを可能にします。「違法解雇をしてもよい」という風潮がまん延すれば、雇用はますます劣化するでしょう。
解雇規制の緩和、非雇用化の推進、残業上限規制のかからない労働者の拡大――。安上がりの労働者を必要な時に必要な分だけ提供する「世界で一番企業が活躍しやすい国」(安倍首相)の総仕上げが行われようとしています。
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