違法解雇でも使用者が金銭を支払えば雇用を終了できる「解雇の金銭解決制度」。今、その法技術面の検討が進められています。「労働者の救済」を打ち出しているのが特徴。参院選後に法制化へ本格的に動き出す可能性があります。
解雇の金銭解決制は2000年代初頭、「日本の解雇規制は明確でない」との米国経済界からの要望があり、導入が検討されました。しかし、日本の司法制度になじまないことや労働組合の強い反対などで、これまで2度断念に追い込まれています。
それが第2次安倍政権で再び浮上。2015年に閣議決定された日本再興戦略で「時間的・金銭的な予見可能性を高め(略)対日直接投資の促進に資するよう、グローバルにも通用する紛争解決システムのあり方について検討する」と明記し、厚労省内で検討が始まりました。
それでも意見がまとまらず、同省の有識者検討会は17年、「3論併記」とも言うべき形で報告書を作成しました。現在は法学者らによる制度の法技術面の検討が行われています。
今検討されている案は、労働者が原職復帰を求めずに金銭を求める「労働契約解消金請求権」という権利の創設です。労働者が「解消金」を求める裁判を起こし、「違法解雇」の判決後に使用者が金銭を支払い、雇用を終了させる仕組み。この解消金の算定式や解消金の上限・下限の水準などを検討しています。
●安上がりのリストラに
違法解雇を争う裁判では通常、原職復帰を求める地位確認訴訟が一般的。厚労省は、職場に戻りたくない人や泣き寝入りする労働者の救済を掲げますが、本当にそうでしょうか。
金銭和解は地位確認訴訟でも普通に行われています。裁判の内容次第では労働者に有利な和解にもなります。泣き寝入りを減らすには、3カ月以内で解決する労働審判の利用を促す対策が有効と指摘されます。
本当の狙いは救済ではありません。日本労働弁護団の弁護士は「必ずリストラの武器にされる」と警告します。「解消金の上限の6割を払う」などと言って解雇を受け入れさせるやり方です。解消金は裁判で解雇無効判決が出なければ支払われません。裁判を回避し受け入れを選ぶ労働者が増えるという指摘です。
「この種の違法解雇にはこれくらいの金額」という相場ができ、事実上の「解雇自由社会」の到来が懸念されます。まさに約20年前に米日経済界が求めた「予見可能性を高める」という姿。早く安上がりなリストラを進める手段として悪用されるでしょう。
米国などによる対日投資を進めるために、国内の安定雇用を破壊する――。これは「売国」行為と言っても過言ではありません。
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