――中小企業支援の中身は?
末松 大企業による中小企業いじめがひどい。毎年コストカットを要請する実例が見受けられる。円高の時に単価切り下げをお願いし、円高が終わり円安になってもまだ要請している。そんなことを続けていたら中小零細企業はいつまでたっても賃上げできない。不当な搾取構造ともいうべきあしき慣行をやめさせ、監視を強めることが必要だ。
そのうえで、最賃を1300円に上げるために、中小企業支援策やリカレント教育(社会人教育)など大規模な政策パッケージを打ち出すことを作業チームとして掲げた。
個人的には数兆円規模の中小零細企業支援が必要と考える。韓国は、文在寅大統領就任後の大幅引き上げで、9千億円規模の中小零細企業支援の予算を組んだ。日本はそれを数倍上回る規模が必要。社会保険料の事業主負担の軽減や減税など、さまざまな方法が考えられる。
こう言うと「じゃ、その財源をどうするのか」と必ず聞かれる。安倍政権は日本銀行に450兆円近くもの借金をさせ株価をつり上げている。そんなことよりも、「生きたカネ」としてボトムアップのための支援を行うべきだ。スタートアップ時はそれなりにエンジンが必要で、国債でまかなっても問題はない。景気回復への先行投資として望ましいと思う。
最賃を1300円に引き上げ、所得を底辺からボトムアップし、地方、全国の景気を拡大させる。そうすると、企業がもうかるようになり、従業員の賃金が上がり消費が強まる――こうした「善の循環」を生み出していけば、支援に必要な金額も徐々に少なくなっていくだろう。
――大企業は内部留保をためこんでいます
私たちは日本の経営者を厳しい目で見ている。ヨーロッパと比べても日本の企業は賃金が低い。どうも日本の経営者は労働者の賃金を正当に見積もらず、安ければ安いほどいいと見ているようだが、それはよくない。経営者が甘えている。
株主も大事だけど、従業員も大事だという慣行をつくらなければならない。たとえばあまりに労働分配率の低い会社には厳しい対応をするとか、あるいは逆に分配率の高い企業に優遇措置をとるか、いずれかの措置は検討されるべきだ。
●最賃法改正で尊重義務を
――最賃引き上げは現在の仕組みでできる?
毎年の最賃改定は、最低賃金審議会で、労使と公益委員の3者で決めている。労働側と使用者側が対立するのは当たり前で、だいたい公益委員が決めてきた。実際には現状追認のようになっていて、きちんと機能していなかったのではないかとみている。
最賃法を改正し、閣議で決めた政府目標の尊重義務を中央最低賃金審議会に課すことが一案だ。そうすれば、審議会の答申では政府目標に沿った引き上げ目安が出てくるようになるのではないか。もちろん上げることについてのみ。下げることはない。
フランスでは最後は政府が決める。同国にいる知人に「なんでそんなに最賃が上がるのか」と聞いたら、「選挙のたびに各政党が最賃額の目標を出し合い、上がっていった」と話していた。国民の生活に責任を負う政治がしっかり目標を示し、政治の責任で決めていく必要がある。
日本の場合は閣議決定が軸となる。実際、現政権の下で、政府が「3%」といえば、その通りの引き上げ目安になっている。この数年間で既に確立された「政治主導」だといえる。
●経団連は資料送付
――作業チームではどんな議論を?
検討会では、現場をよく知る労働基準監督署や、連合、学者、厚生労働省、財務省、経産省、税理士会などにヒアリングを実施。民主党政権時に厚生労働政務官を努めた山井和則衆院議員に、最賃をなぜ上げきれなかったのかを聞いた。
経団連にも声を掛けたが来なかった。資料を送りつけて来ておしまい。彼らは最賃引き上げを嫌がっている。だから自民党に最賃の抜本的引き上げはできないだろう。経団連から多額の政治献金をもらっているからね。
自民党内に全国一元化推進議員連盟ができたが、最大のハードルは、経団連を説得できるかだ。時給1300円を言えるか。無理だと思う。私たちは経団連から献金を受け取っていないので、労働者の代表として引き上げを主張できる。
最賃については、社会に非常に強い要望があると感じている。街頭で訴えていると、若者が真剣な表情で近寄ってきて「ぜひ頼む」と言ってくる。これがないと生活できない、と。厳しい生活を送る多くの働く人たちの思いをくみ取り、政策実現を訴えていきたい。
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