布団の製造販売大手、丸八ホールディングス(丸八HD)の関連会社で働く16人の販売員が、業務委託契約を装った個人請負の契約は違法だとし、報酬から引かれた経費分の返還などを求めて6月25日、さいたま地裁に提訴した。
原告は訪問販売を手がけるハッチーニ丸八に対し、不当利得10年分の返還と未払い賃金2年分の支払いを請求。併せて丸八HDや関連会社の丸八真綿販売にも民法上の共同不法行為責任があると指摘している(概念図)。
●生活は困窮し自殺者も
原告らはもともと正社員として働いていたが、1990年以降、販売成績を理由に業務委託契約(個人請負の委託販売員)に切り替えられていった。当時の社長から日常的に「売れていない社員はぶら下がり社員だ」「給料泥棒」「売り上げが悪いからこのまま社員にいてはだめだ」などと叱責(しっせき)され、仕事を続けるには契約変更を受け入れざるを得なかったという。現在ハッチーニ丸八で働く45人のうち37人が委託販売員で、正社員は8人のみ。
個人請負になると、営業用車のリース代やガソリン代、出張営業の経費などを負担させられ、月7~9万円が報酬から天引きされた。訪問販売を規制する特定商取引法の改正や景気悪化などの影響で売り上げが低迷。経費が報酬を上回り「マイナス給料」になることもある。その分は翌月の報酬から差し引かれ、生活が困窮し借金する人や自殺者も出ているという。
●正社員と同じ働き方
委託販売員になっても、ノルマを課せられ、出・退勤時刻、報酬額もハッチーニ丸八が決めている。こうした働き方の実態から、原告は労働基準法上の労働者であると主張している。丸八HDや丸八真綿販売についても原告らを個人請負としながら、携帯端末機器を配布して使い方の研修を行い、具体的な指示を与え続けていることから、共同不法行為の責任があると指摘する。
28年近く働いている鈴木健二さんは「仕事を失うわけにはいかないと働いてきた。どこをどう見ても労働者だ。約10年にわたりひどい働き方を押しつけられてきたが、労働組合を結成し労働者の権利を学んで、自分たちが置かれている状態のひどさに初めて気づいた」。
全労連・全国一般労働組合埼玉地方本部の林博義委員長は「働き方改革の名の下、全国で正社員と同じように働く個人請負の労働者が増えている。労働基準法逃れの『雇用によらない働き方』の実態と危険性を広く知らせ、警鐘を鳴らしたい」と語った。
裁判と併行して、原告16人が加入する同地本・丸八真綿埼玉支部は同日、関連3社に団体交渉に応じるよう埼玉県労働委員会に救済を申し立てた。
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