6月28日、29日に大阪で行われるG20サミットでは、「デジタル経済」の推進が主要な議題の一つとなる。デジタル経済について明確な定義はなく、コンピューターによる情報処理技術で生み出された経済活動全般を指す。
●個人情報がビジネスに
デジタル経済を推進する際に最も重要なリソースとなるのが、個人情報を含む「データ」である。名前や性別、国籍などの基本的情報はもちろん、購入履歴や決済、預金などの金融に関する履歴データ、医療にかかった際のカルテなどのデータ、ツイッターやフェイスブックなどSNSにおける個人の投稿(写真含む)などは、どれも企業にとってはビジネスの源泉である。
デジタル経済の進展は、さまざまな観点から懸念や危険性をはらむ。私たちも参加する国際的な市民グループは、G20に向け、デジタル経済の促進に当たっての課題と提言をまとめている(詳しくはC20ウェブサイト参照http://www.civil-20.jp/)。
●便利なのは確かだが…
国際的にはこうした問題について、企業と市民の攻防があちこちで起こっている。例えば「顔認証」システムだ。中国や米国では、すでに顔認証によるキャッシュレスの買い物が試行中だ。スーパーマーケットに入ると、店内に数多く設置されたカメラが瞬時にその人の顔と個人情報を結び付け、事前に登録されている個人と特定されれば、あとは商品を選んで持ち帰るだけ。代金は別途登録されたカード情報から自動的に引き落とされる。
便利なシステムであるが、プライバシーや人権という観点からすればどうだろうか。欧米では街中で収集した数百万人ともいわれる顔データについて、プライバシーの侵害や警察権力の誤認逮捕などの人権侵害につながりかねないとして、以前から規制や明確な適用ルールを求める声が高まっていた。
●米国では禁止条例も
5月22日、米国でアマゾン社の株主総会が開かれた際、一部の株主は、同社の顔認証システム「Recognition」を政府機関に販売しないよう求める案を提起した。却下されたが、この提案への支持を呼び掛けてきた米国自由人権協会(ACLU)は株主にあてた手紙の中で次のように書いている。
「政府機関へのアマゾンの顔認識技術の提供は、人々を追跡し、そしてコントロールして害するという空前のパワーを政府に与え、政府と個人の力関係のバランスを根底から変える。他の監視テクノロジーの長い歴史が示すように、顔認識は移民や宗教的マイノリティー、有色人種、活動家、そして攻撃されやすいコミュニティーを狙い撃ちにするものであることは疑う余地がない」
サンフランシスコ市議会は5月14日、公共機関による顔認識システムの導入を禁じる条例案を可決した。米国の地方自治体としては初。条例により、市の警察や市営交通機関を含む全ての地方機関は今後、顔認識システムが導入できなくなる。また、ナンバープレートリーダー、DNA解析を含むあらゆる監視技術を新たに購入する計画に市の承認が必要になる。
アマゾンだけでなく、世界中のハイテク企業は顔認証技術の開発と普及を進めるが、人権侵害や社会への影響を考えたとき、新たな技術の適用に当たっては、法律や規制でコントロールしていくべきである。米国の市民団体や自治体による試みは、私たちにも大きな示唆を与えてくれるだろう。(アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子)
コメントをお書きください