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    〈第4次産業革命の現状と課題〉下/「人間中心」を貫けるか/上場企業で進む人員削減

     第4次産業革命は労働の量だけでなく、質にも大きな変化をもたらしつつある。その影響を最も受けるのが労働者である。こうした動向を受け、1980年代のME(マイクロエレクトロニクス)革命のとき、日本とともにフロントランナーだったドイツは、政労使連携の下、「インダストリー4・0」という国家戦略を推進している。

     これに比べて、日本は憂慮すべき状況にある。労働組合の先駆的な取り組みとして、19春闘でUAゼンセンが、デジタル技術革新への対応として、雇用確保と労使協議を求めた「AI3原則」を策定したが、労働界全体の動きは見えない。一方、経団連は2月にAIを活用するための指針や枠組みを示す「AI活用戦略」を公表した。

     しかし、ME化5原則のなかにあった「労使協議」は含まれていない。こうしたなか、5月22日に経済協力開発機構(OECD)の閣僚理事会がAIに関する初の国際的な政策ガイドラインを採択した。人とAIの共生に向け、説明責任や個人情報の保護などの「人間中心」を一応掲げたものの、各国政府への提言は「人々にAIに関わる技能を身につけさせるとともに、労働者が偏りなく転職できるよう支援する」という内容にとどまっている。

     

    ●人事部は関与せず

     筆者が関わったRPA(ソフトウエアロボットによる自動処理)などを導入している企業ヒアリング調査で、対象となったのは経営企画部門で、人事・労務ではなかった。この調査概要を報告した4月24日の労働政策審議会基本部会で、ある有識者は「人事部門は労働組合以上に保守的だから」と発言した。新技術の導入は、業務に精通した少数の専門スタッフが担い、実証実験を重ねつつ、システムに新たな機能を組み込む「実装」の段階になってから、新たな技能の習得が求められ、場合によっては配置転換が発生する。

     メガバンクで発表されている大規模な人員・店舗の削減はこうした労働の量・質の変化を端的に示している。一方、人手不足が深刻な経営課題になっているにもかかわらず、東京商工リサーチの調査によると、19年の上場企業の希望・早期退職の募集は、既に前年の実施社数を上回っており、ほとんどが45歳以上を対象にしている。

     

    ●進行する少数精鋭化

     現政権は70歳まで就労できる機会として、定年延長を選択肢としているが、現実的には45歳がハードルとなりつつある。

     こうした状況を見ると、日本の労働市場では同時に二つの現象が起こっているのではないか。人手不足が常態化しているサービス業、医療・介護の現場では、AIなどによる省力化を進めつつ、高齢者だけでなく、女性・外国人の活用も必須となる。

     その一方、競争が激しい最先端産業では、技術革新を担う層の少数精鋭化が進み、対応できない人には、セカンドキャリアを考えてもらうために45歳を節目に決断を促す。

     急激な技術革新にすべての社員が追いついていくことが難しい現状を踏まえてか、最近、経営トップから「終身雇用は難しい」との発言が相次いでいる。変化は漸次的に進むものと、ある時を期して急激に進むものがある。労働組合には、事後ではなく事前対応がこれまで以上に必要となる。(独立行政法人労働政策研究・研修機構 リサーチフェロー 荻野登)