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    「雇用安定は無理、死ぬまで働け」/政府諮問会議委員らの思惑

     政府の各諮問会議の方針決定を前に、各界関係者による発言がニュースをにぎわせている。「終身雇用」の否定、副業・兼業促進のための規制緩和、70歳までの継続雇用と年金支給の70歳への繰り下げ――などだ。そこからは経済界と現政権が強く求めてきた「雇用の流動化」と、体が動く限り働かせる「終身労働」ともいうべき未来像が浮かぶ。一方、経済の好循環実現を訴え、最低賃金の引き上げを求める意見も経済界から出始めている。

     

    ●またぞろ金銭解決制

     

     「終身雇用は限界」「終身雇用を守っていくには難しい局面に入ってきた」。中西宏明経団連会長(日立製作所会長)や豊田章男トヨタ自動車会長が雇用の安定に背を向ける主張を行い、波紋を広げている。

     違法解雇でも金を払うことで労働者を追い出せる「解雇の金銭解決制」の導入は、昨年の未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で明記され、閣議決定済み。以降、「金銭解決」の看板を「金銭救済」に変え、厚生労働省の有識者検討会で法技術面の検討を進めている。結論が出れば、次は法制化の審議に移行する。

     2000年代初め以降、日米経済界の要請で二度三度と浮かんでは、労働組合や世論の反対で消されてきた。推進派にとっては悲願の制度であり、実現に向けた下地づくりを試みているともみられる。

     副業・兼業促進の制度整備についても一定の方向性が示された。政府の規制改革会議(議長・草刈隆郎日本郵船取締役相談役)は4月、本業と副業先の労働時間を通算し、割増賃金の支払いを義務付ける現行規制の緩和を打ち出した。

     長時間労働から働き手を保護する仕組みが消える。本来、国がなすべきは、副業をしなくても暮らしていける環境整備のはず。働き手不足の解消と、賃金コスト抑制の継続という、一部経済界の要望に沿った政策といえる。

     70歳までの雇用の努力義務化と、年金支給の70歳への繰り下げを選べる制度の導入も、政府の未来投資会議(議長・安倍晋三首相)の議題に盛り込まれた。年金の65歳支給への段階的移行が進むが、定年延長をした企業は廃止を含め2割に過ぎない。年金支給が60歳から65歳に繰り下げられたように、将来的に70歳支給になれば、老いて働かざるを得ない人々の増加が懸念される。

     劣悪な雇用の象徴とされる日雇い派遣の〃復活〃も「副業を広げる」を理由に規制改革推進会議で画策されている。

     

    ●最賃増加速の発言も

     

     最低賃金では、内閣府の経済財政諮問会議(議長・安倍首相)で、民間議員が「より早期に」全国加重平均が千円となるよう引き上げるべきとの意見表明を行った。加重平均千円は以前からの目標だが、到達を早めるよう求めている。

     12年からの6年間の引き上げで、日本経済への消費刺激効果が9200億円に上るとの推計値を示しており、経済の好循環に対する最低賃金の効果を訴えてきた労働側の主張が実を結んだ形。ただ、年々広がり続ける最賃の地域間格差の解消には触れておらず、懸念も残る。