令和改元の祝賀報道の過熱ぶりは異常だ。時代が変わったわけではなく、平成30年間の賃金・雇用・福祉・憲法を破壊する深刻な状態は継続している。あらためて平成から令和の運動課題を検証した。
●分配のゆがみ拡大
平成30年間は世界でも異例とされる賃金デフレと分配のゆがみが拡大した。
1989年(平成元年)の民間労働者の平均賃金は455万円であり、2018年(平成30年)には432万円へ23万円も減少。一方、大企業の内部留保は30年間で88兆円から425兆円へ5倍も増えている。
春闘では賃上げが物価分を下回る実質賃金マイナスの賃金デフレは30年間で13回もあり、うち13年以降が5回という深刻さだ。
世界でも日本の賃金低下は異常であり、民間部門の時給が97年と17年の20年間で9%も下落し、「主要国では日本のみが賃下げ」と日本経済新聞が一面トップ(3月19日付)で報じるほどだ。
連合のシンクタンクの連合総研は01年に「過小賃上げはデフレに加担」と警鐘を鳴らした。令和でも警鐘乱打。春闘で実質賃金維持の社会的相場確立へ統一闘争の強化が重要となる。
●格差・貧困も深刻化
格差は複雑であり、企業規模、産業、学歴、地域、勤続年数、男女、雇用形態など多様である。賃金格差では正規、非正規などの雇用格差が大きな問題だ。
変化は95年(平成7年)の旧日経連(現経団連)「新時代の『日本的経営』」からだ。雇用システムを(1)長期継続雇用型(2)専門契約型(3)パートなど雇用柔軟型への三極化を提言。その結果、非正規労働者は89年の817万人(19・1%)から18年には2117万人(37・9%)へと就業者の3分の1を占める。
派遣法も04年から製造業務が解禁され、08年12月31日からの「年越し派遣村」は「人間使い捨て」として社会に大きな衝撃を与えた。過労死・過労自死など不条理な「ブラック企業」も平成の産物である。
雇用形態による賃金格差も17年時点で男性正社員100に対し、男性非正規は59、女性非正規は47。ワーキングプアも増大し、年収200万円以下は89年の828万人(19%)から17年には1085万人(22%)に増加。年収500~800万円の「中間層」の減少も深刻だ。
令和では、非正規の正規雇用化を含め雇用格差の是正へ、同一労働同一賃金の実現が重要課題となる。
●最悪の労働法制破壊
平成では戦後最悪の労働法制の改悪が目立った。安倍政権は「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げ、18年に「働き方改革関連8法」を強行採決。とりわけ「高度プロフェッショナル制度」(残業代ゼロ制度)は労働基準法(1947年施行)の歴史の中で、労働時間規制を除外する最悪の岩盤破壊である。雇用政策の決定も官邸主導でILOの公労使三者原則を軽視する強権ぶりだ。
AI(人工知能)化による大量の労働移動と非雇用就労者の増加、違法解雇の金銭解決、人口減少と外国人労働者の増加など課題は多い。労働法制の解体攻撃にも関わり、労働界の共同した反撃が重要となる。
●税と社会保障も悪化
税と社会保障も悪化している。税制では、消費税の導入30年間(89年3%→97年5%→14年8%)で国民負担は372兆円だ。
ところが法人税、所得税などはこの間、大企業・高所得者優遇策で累計560兆円も減税されている。
一方で、社会保障への攻撃が加速している。安倍政権は13年以降の累計で1兆5900億円も社会保障費を削減。年金削減、医療費の窓口負担増、介護保険料引き上げ、生活保護基準引き下げなど、国民生活に深刻な打撃を与えている。
家計も直撃され、消費税8%増税前(13年)の消費支出平均は364万円だったが、18年には339万円へ減少し、消費低迷と景気悪化を招いた。
政府は令和元年の今年、10%への消費増税を掲げている。野党の多くは反対し、7月参院選で大きな争点となる。
●戦争準備した30年間
平成は「平和な時代」ともいわれるが、「戦争準備の30年」(朝日新聞4月27日・作家丸山仁氏)でもあった。同時に9条改憲阻止へ向け組織の違いを超えた市民と労組、野党の新たな共闘拡大も特徴だ。
自衛隊が初めて海外派兵したのが平成3年(91年)のイラク湾岸戦争。92年に国連平和維持活動(PKO)を制定し、カンボジアに派兵。13年に「現代版治安維持法」の特定秘密保護法、15年に違憲の集団的自衛権行使を容認する国際平和支援法を強行採決した。今も自衛隊の9条明記など改憲策動を強めている。
「安倍暴政」に対し全労連や平和フォーラム系労組、全労協などは14年に新共同組織の「総がかり行動実行委員会」(19団体)を結成し、「市民連合」「全国市民アクション」などと安倍改憲阻止へ12万人集会(15年8月)や3000万署名を展開。また11年の福島原発事故の翌年から脱原発を掲げた共同集会も開いている。
平成から令和ヘの労働運動。全労連の小田川義和議長は「改元で賃金、雇用劣化の異常は解消されず、闘い続けよう」と呼びかけている。連合の神津里季生会長は「残された課題打開へ2035年を展望した連合ビジョンを策定し、新たな運動を展開」と語る。
連合、全労連、全労協の結成から30年。令和は平成の残した未解決の課題克服へ、労働界の統一した運動が求められている。(ジャーナリスト 鹿田勝一)
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