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    禁止に踏み込まない政府案/ハラスメント防止/実効ある規制へ、野党が対案

     ハラスメント(嫌がらせやいじめ)を防止するために、事業主や国の責務を定める法案が衆議院で審議入りした。ただ政府案ではハラスメントの禁止にまでは至らず、実効性が疑問視される。これに対し、野党が対案を示している(表)。

     パワーハラスメント(優越的な関係を利用した嫌がらせ)への対策は初の法規制となる。法案審議の元になった労働政策審議会では、使用者側が指針にとどめるべきと強く主張する中、法規制にこぎ着けた。

     労働施策総合推進法(旧雇用対策法)の改正で対応する。事業主に対し、防止のための方針の明確化と周知、相談体制の整備など「雇用管理上の措置」を講じることを義務付ける内容だ。建議ではハラスメントを「労働者の尊厳や人格を傷つける等の人権に関わる許されない行為」との基本的な考え方が示されたが、法案には反映されていない。

     事業主に防止措置を義務付け、行政が指導する規制方法は、セクハラやマタハラ(出産や育児に関わる嫌がらせ)への既存の規制と同じ。そのため実効性を疑問視する見方が根強い。

     野党4党案(立憲民主、国民民主、社保、社民)は事業主への措置義務を設けることに加え、顧客による加害行為も対象にしている。共産党は政府案への修正として、ハラスメントの包括的禁止と救済機関の設置を求めている。

     

    ●セクハラ禁止の新法

     

     政府案はセクハラとマタハラについて、「行ってはならない」ことの理解を広げるよう国の責務を明記。事業主には、被害について相談したことや事実を述べたことを理由に解雇などの不利益な取り扱いをしてはならないとした。

     野党はセクハラ禁止法案も提出。「性的加害言動」を禁止しているのが最大の特徴だ。国は紛争の迅速で、適切な解決を進める体制を整備することとした。対象となる被害者には、雇用類似の個人事業主や就活生を含めている。

     同時に男女雇用機会均等法の改正も提起した。政府案と同様の措置義務に加え、中小業者への支援、同法上でのセクハラ、マタハラ禁止規定の創設などを検討課題としている。

     国際労働機関(ILO)の今年の総会で採択される予定の条約では、加盟国に暴力とハラスメントを禁止する国内法整備を求めている。国際水準を踏まえた国会審議が求められる。