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    寄稿/〈アイスランド労組訪問記〉/移民と女性労働者が主人公/奥貫妃文・東ゼン労組委員長

     

    今年3月、アイスランドの労組に招待された東ゼン労組の奥貫妃文委員長に訪問記を寄稿してもらった。

     

    上・小さな組合に突然の招待状

     私が執行委員長を務める全国一般東京ゼネラルユニオン(東ゼン労組)は、2010年に結成した多国籍・多民族を特徴とする、あらゆる職種を対象とした合同労働組合で、連合東京に直加盟している。今年で結成9年目。組合員240人超という小規模な組合である。

     

    ●チョムスキー氏の縁で

     

     この小さな組合に突如、日本から9千キロの距離を隔てた北欧の島国アイスランドから「招待状」が届いた。昨冬のことである。アイスランド第2の規模の労働組合「EFLING」(エプリングと発音)でオルガナイザーとして働くカナダ人マキシマム・バルー氏(マックス氏)は、東ゼン労組のオルガナイザーであるルイス・カーレットが、言語学者ノーム・チョムスキー氏来日の際、通訳兼コーディネーターを務めている様子をYouTubeで見て、ぜひ東ゼン労組を招待したいと考えたという。

     チョムスキー氏来日イベントのテーマは、「組織内外における民主主義の在り方」だった。組合組織内部においても、民主主義をないがしろにするような運営を放置していてはならない。そのことを常に自戒しながら、内部の組織運営については徹底して議論し考えてきたという自負がある。マックス氏は、こうしたわれわれの姿勢に、大きな関心と共感をもってくれたようである。

     突然の〃ラブコール〃に戸惑いながらも、これ以上の光栄なことはないと素直に喜び、慌ただしく旅支度をして役員3人でアイスランドに渡った。日程は3月2日から10日間。

     

    ●組織率は約9割

     

     片道14時間半のフライトを経てアイスランドに到着すると、さっそくエプリングの事務所に案内された。事務所は、首都レイキャビックの中心に位置しており、部屋からは海が一望できるという最高のロケーションで、組合員専用のカフェテリアも併設されている。東京・新宿で猫の額ほどの事務所を借りているわれわれは羨望(せんぼう)のまなざしを向けるほかなかった。

     北欧諸国は概して労働組合の組織率が高いが、アイスランドはとりわけ高く、約9割を誇る。政府と労働組合、使用者団体(SA)の3者によるコーポラティズム・システム(利益集団システム、協調主義)が確立しているのも大きな特徴である。

     

    〈写真〉筆者(右)とエプリングのソルベイグ・アンナ・ヨンズドットル執行委員長。ソルベイグ氏は元保育士

     

    下・運動で際立つ女性の存在感

     エプリングの組合員数は約2万7千人。日本で報じられるアイスランドに関する情報といえば、「男女平等指数世界ランキング第1位」が最も多いと思われるが、近年大幅に外国人労働者が増加しているという側面も見逃せない。2008年には通貨危機に直面したが、現在は実質経済成長率が5・7%まで上昇し好調である。水産業や、再生可能エネルギーを用いたアルミや鉄鋼原料の生産が主要産業で、最近では観光業が好調な伸びを示している。

     

    ●移民が経済に好影響

     

     こうした好調の裏側にあるのは、移民(外国人労働者)の存在である。日本と同様、外国人労働者がここ数年増加の一途をたどっている。最新統計(アイスランド統計局 https://www.statice.is/publications/news-archive/inhabitants/population-by-origin-2018/)によれば、昨年1月1日時点におけるアイスランドの外国人労働者数は4万3736人で、全人口の12・6%を占める。最も多いのはポーランド人(1万6970人)で、外国人労働者全体の約4割を占める。次いでリトアニア人(2420人)、フィリピン人(1754人)と続く。これら外国人労働者の組合員比率がきわめて高い点は、東ゼン労組と共通する。

     労働組合における女性の存在感は際立っている。会議やプレゼンテーションに参加した時にも、約7~8割が女性組合員であり、それもリーダーシップをとって自ら運営する側に回っている。子ども連れで会議に参加する人もちらほら見られた。女性の組合活動に関しては、東ゼン労組はエプリングの足元にも及ばないと実感した。

     

    ●国際女性デーにスト

     

     滞在中に、ホテルで主にハウスキーピングの仕事に従事している労働者たちが大規模なストライキを決行した。3月8日「国際女性デー」の日だった。ハウスキーピングの仕事はアイスランドにおいてもいまだ「女の仕事」と認識され、重労働にもかかわらず低賃金状態が定着してしまっているという。とりわけ移民の女性労働者が劣悪な環境で働いている現実に目を向け、意図的に国際女性デーにストを決行したのだと聞いた。

     「Solidarity is Showing Up!(団結は言葉だけでなく、行動で示すものだ!)」 

     これは、東ゼン労組のスローガンだが、今回、アイスランドの組合員たちはこの言葉にいたく感激してくれた。ストライキの際のスピーチで、このスローガンに言及してくれた組合員がいて、われわれも思わず胸が熱くなった。組合活動の背景にある事情や法制度は国によって異なる部分も多いが、組合員の間に国境はないのだということをあらためて感じることができた旅であった。

     

    ※エプリングのウェブサイト(https://efling.is/?lang=en)

     

    〈写真〉スト中のエプリング組合員