静岡県島田市(染谷絹代市長)の3月議会で、非正規職員が担っている業務を包括的に民間委託する計画が頓挫した。議会の総務生活常任委員会など三つの常任委が全会一致で委託経費を含む予算案を否決。3月26日の本会議で関連経費を削除した予算案が可決された。住民サービスへの影響などについて十分な検討を行わないまま「委託ありき」で結論を急いだことに、与党会派をはじめ反発が広がったためである。
●背景に会計年度職員
島田市が包括委託を計画したのは、地方公務員法の改正などにより来年4月に実施される会計年度任用職員制度をすり抜けるのが目的だった。
市の説明資料(2018年10月)によれば、会計年度任用職員制度が導入されると、期末手当(一時金)支給などでコスト増になり、これまでのように非正規職員を任用(雇用)できなくなるからだという。現在は1人当たり年間176万円の賃金が247万円に上昇するとの試算を示し、委託なら226万円に抑えられると説明する。
しかし、総務省は同制度への移行に当たり、財政上の制約を理由に導入を抑制してはならないと指示している。国会(2月21日の衆院総務委員会)でもこの問題が取り上げられ、島田市のような対応について同省の大村慎一公務員部長は「法の趣旨に沿わない」と答弁した。包括委託の目的自体が不適切だったということだ。
●住民サービスは二の次
加えて、検討の拙速さも頓挫の大きな要因だった。 自治労連と同弁護団など14人の調査団が1月21日、同市を訪れ、当局にヒアリングを行っている。自治労連側は包括委託について(1)市職員のノウハウや専門性の確保(2)市職員と受託社員のやりとりが生じた場合の違法な偽装請負(3)住民の個人情報保護(4)非正規職員の雇用維持(5)災害時や受託会社都合による契約の中途解除――などの課題ごとに問題点をただした。
市側は「適切に対応する」「法令を順守する」「雇用(確保に)は可能な限り対応する」などと抽象的な受け答えに終始していたという。
自治労連は、戸籍窓口業務を民間委託した東京・足立区が東京法務局と東京労働局から違法性を指摘されて、業務の大半を直営に戻した事例を紹介。違法な偽装請負になる恐れや住民サービス低下を招く可能性についても指摘した。
●偽装請負の恐れあり
この調査実施後、島田市の包括委託には問題が多いという認識が非正規職員や市議らの間にも広がっていった。特に「学校教育支援員」57人の委託に対しては、「(偽装請負を避けるため)教師と相談できなくなれば、教育現場が混乱する」と、懸念する声が上がった。
島田市労連が主催した包括委託の説明会には、82人の非正規職員が参加。その場で行ったアンケートでは、75%が委託によって住民サービスが低下すると指摘し、85%が雇用不安を訴えていた。
関連経費が拒否された19年度予算の成立について染谷市長は「6月議会以降に理解を得られるようにしたい」と語り、引き続き民間委託を追求する姿勢を示している。
自治労連は各地で包括委託を広げようとする動きがあるなか、島田市でその出鼻をくじいたことを評価しつつも「まだ油断できない」と警戒している。
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