19春闘の大手回答は電機など金属が前年割れ、UAゼンセンなどが前年プラスなどとばらついた。物価上昇分以下の低額ベアで、賃金デフレ継続という厳しい結果となろう。経団連は統一闘争を否定する「自社型賃金決定」を評価。今後、春闘見直しは労使の大きな課題となる。岐路に立つ春闘に焦点を当てた。
●デフレ推奨の経団連
連合の回答集計は水準、分配とも課題を残した。
回答水準(3月22日)は平均6475円で昨年比33円減(0・04%減)。ベアも昨年より120円減の1828円(0・62%)だ。300人以上の大手は1846円(0・62%)で昨年より114円減(0・03ポイント減)、300人未満も1350円(0・52%)で219円減(0・04ポイント減)と厳しく、格差は拡大している。
回答水準のベア0・6%程度では、物価上昇分の1%も確保できておらず、実質賃金マイナスの賃金デフレとなる。さらに企業の内部留保は443兆円と過去最高であり、株主配当も増大しながら、労働分配率は43年ぶりに56%へ低下し、分配のゆがみは拡大したままだ。
連合は、経済の先行き不安の打開と内需拡大を目指し、定昇2%とベア2%の4%程度を要求。回答について、神津里季生会長は「賃上げの土台としてはそれなりのものだ」と言いつつも「要求との対比では物足りないと言わざるを得ない」と述べた。
経団連の中西宏明会長は、実質賃金マイナスの低額ベアさえ「賃金引き上げのモメンタム(勢い)は維持」と賞賛。世界でも異例な賃金デフレ推奨に組合は反撃すべきだ。
●金属とゼンセンで明暗
けん引役の電機連合は昨年比マイナス500円のベア千円で妥結した。野中孝泰委員長は「経営側は賃上げにこだわらず、退職金、仕事と家庭の両立支援、職場環境改善など各社の多様な処遇を強調してきた」と、「脱ベア・自社型春闘」の強まりを語る。
春闘を変容させたのは自動車総連とトヨタ。格差是正の名の下に産別自決として統一ベアを見送り、「単組自決」に転換した。その結果、トヨタ、マツダはベアを非公開とし、同系列の約20組合も追随した。ベアは日産が昨年同様3千円(定昇込み9千円)を満額確保し、マツダも要求9千円(ベア非公開)の満額獲得。本田などメーカー組合は昨年比マイナスへと回答内容は分散した。
単組自決の典型はトヨタだ。「ベア重視から、諸手当・絶対額重視」へ転換し、定昇もベアも示さず、正規、非正規、諸手当込みの多様な賃上げ1万2千円を要求。回答は組合員1人平均1万700円と表示された。連合の神津会長はトヨタなどについて「要求、回答ともオープンが原則。広がらないようにさせたい」と言明した。今後その実行が課題となろう。
基幹労連はベア1500円の横並びで決着。JAM大手は自動車関連などの業種で明暗が別れた。中小は善戦している。
UAゼンセンのベア(3月22日)は平均1911円で前年を96円上回り、金属大手の「引き算春闘」との違いを見せた。交渉は難航したが、物価上昇分などを踏まえ、事前・事後スト権を確立、「昨年割れの組合には再交渉をさせている」と産別統一闘争の威力を発揮した。大手先行の高額相場を中小、非正規へ波及させる方針である。
●個別賃金も引き上げ不足
連合が春闘再構築として新たに提起した「上げ幅から賃金水準へ転換」の足がかりとなる春闘。格差是正と賃金水準の横断化をめざした個別賃金も課題を残している。
要求と銘柄は職種、年齢、規模、地域などで31・1万~20・2万円と13類型に分散している。整理も必要だろう。30歳のベア要求は7024円(2・97%)で24万3366円を設定。回答(3月15日)は1677円(0・67%)と、要求の4分1程度だ。神津会長は「謙虚に分析したい」と述べている。
個別賃金も、賃金目減り分の補填(ほてん)など水準引き上げが求められる。
●働き方で多彩な要求
各産別とも働き方改革で多彩な要求を掲げた。3月4日の連合集計によると、「長時間労働の是正」では36協定の点検・見直しが180組合、インターバル規制導入は224組合、「同一労働同一賃金」では一時金、福利厚生などが581組合、「ハラスメント対策」などを含め9課題32項目を掲げている。連合は時短へ「36の日」の新設キャンペーンを開始した。
全労連も「新36協定キャンペ―ン」を展開。さらに賃上げと労働法制、消費増税阻止、9条改憲阻止を掲げ、医労連、JMITUなど11産別がスト、集会を含む20万人総行動を展開。愛労連は内部留保還元を求めトヨタ総行動も実施した。
●春闘変質攻撃に反撃を
経団連の中西会長は春闘回答で「賃上げにこだわらず、各社の多様な処遇改善」「ベアを非公開にするなど、賃金をトータルに捉える労使交渉がトヨタはじめ企業間に広がっていることは当然」と、脱ベア・自社型春闘を賞賛している。
連合の「月例賃金」「上げ幅」要求に対しては「流れに逆行」と転換を迫っている。電機の経営側は、産別統一交渉と統一回答の見直しも示唆した。
春闘は岐路に立たされている。財界の産業構造転換と日本的雇用システムの改変を狙う「脱ベア・自社型春闘」への変質阻止へ、統一闘争と共闘を軸とする、社会的な春闘相場の形成、波及力の再構築が重要となっている。(ジャーナリスト 鹿田勝一)
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