総務省は昨年7月、自治体で働く臨時・非常勤職員のけがや病気について、本人や遺族による公務災害申請を可能にするよう自治体に通知した。その後、規則改正されたかどうかをNPO団体が調べたところ、都道府県や政令市など主要自治体の約7割で改正済みか、改正予定・手続き中となっていることが分かった。
●総務省通知を具体化
調査したのは、NPO官製ワーキングプア研究会(白石孝理事長)。総務省通知を受け、12月段階で自治体を調べた。対象にしたのは、都道府県、政令市、中核市、県庁所在市、東京都の市などで、有効回答数は111自治体。
それによると、改正済みが60自治体、改正予定・手続き中が17自治体で、合計77自治体。「検討中」を含めると103自治体に達し、9割以上が改正する方向となっていた。
規則改正済みの60自治体に「当事者の臨時・非常勤職員に周知したかどうか」も聞いたが、周知したとの回答は6自治体だけ。同研究会は「当事者への周知を徹底してほしい。来年4月にスタートする会計年度任用職員制度では、勤務条件を書面で明示することになっており、公務で被災した時の補償制度やその手続きを書面に分かりやすく記載することが必要だ」と提言している。
〈解説〉北九州事例が後押し
自治体で働く臨時・非常勤職員の公務災害については従来、本人や遺族ではなく、当該職場の上司らが申請することになっていた。
しかし、上司によるパワーハラスメントでメンタル疾患になった場合など、加害側の上司が公務災害の申請手続きをすることは想定していない。実際、北九州市で家庭児童相談員として働いていた女性がパワハラの末に自殺。母親が公務災害を申請しようとしたところ、「申請する権利はない」と拒否され、現在も裁判を闘っている。
自治体が本人側の申請を拒否できる根拠になっていたのが、自治省(現総務省)の条例規則案(議会の議員その他常勤の職員の公務災害補償等に関する条例施行規則案)の存在だった。災害が発生した時は、上司らが報告を上げ、手続きを取るという内容だ。
北九州市の事例によって規則案の問題点が明らかになる中で、総務省が動いた。上司らの報告に加えて、本人や遺族からの申請も認めるよう規則案を改正し、通知したのである。
そもそも仕事が原因でけがをしたり、病気になったりしたのに公務災害の申請さえできないのは、臨時・非常勤職員に対する明確な差別だ。
今回の総務省通知と、それを踏まえた主要自治体の対応で、差別解消は一歩進んだ。とはいえ、周知不足は否めず、今回対象にしなかった市町村でどうなっているのかは不明だ。臨時・非常勤職員を公務災害制度の対象にせず放置している自治体が少なくないとも聞く。運用を含め実態調査が求められる。
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