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    「過労死容認だ」と強く抗議/医師と遺族がシンポ/残業上限の厚労省案めぐり

     救急などの地域医療を支える勤務医の残業上限を年1900時間~2千時間とする厚生労働省の案に対し、医師や過労死遺族が怒りの声を上げている。2月16日には都内で緊急シンポジウムを開き、「過労死を容認するな」と訴えた。

     過労死弁護団の尾林芳匡弁護士は、医師の過労死の背景には宿直を含む長時間労働があると指摘した。厚労省調査で、勤務医の4割が過労死ライン(複数月平均80時間)を超えて働いていることを紹介し「長時間労働をなくす政策を立てて、実行するのが厚労省の役割。今回の上限案は現状を追認し、長時間労働容認の目安をつくるようなものだ」と批判した。

     開業医の山田明さんは、研修医の娘を過労自死で亡くした(後に労災認定)。残業は月200時間、当直回数は年間77回にも上っていたという。「娘の職場の責任者は弔問も謝罪もせず、病院長、名誉教授とキャリアを重ねていった。誰一人責任を取っていない」と述べ、過労死を発生させた事業所への罰則強化を求めた。

     「医師は他の労働者と同じ生身の人間。戦後70年たっても戦前同様に個人の命を軽視するのか」と語った。

     小児科医の夫を過労自死で亡くした中原のり子さんは、時間外2千時間の上限規制は容認できないとし、新たに「医師の長時間労働と過重労働を考える家族の会」を結成すると報告。「医療者の聖職者意識や犠牲的精神に基づく労働環境をこれ以上許してはならない」と強調した。

     現役の医学生も発言した。東京医科大学の女子入試差別を機に始まった運動「入試差別をなくそう!学生緊急アピール」は2週間で1万4千筆を超える署名を集め、文部科学省に提出したという。入試差別を行った大学名の公表や防止策、管理監督の強化を求めている。

     医学部の女子学生は「受験生の頃から、女性は面接試験で不利だと言われ、いつの間にか女性医師差別が自分にも刷り込まれていた」と述べ、差別をなくし人間らしく働けるよう訴えた。

     

    〈写真〉中原さんは「私たちは最高の医療の提供を願っていますが、それと引き替えに医師が生命と幸福を差し出すことは望みません」と訴えた(2月16日、都内で)