近年、最低賃金への期待と関心が国内外で急速に高まってきている。この本はその背景に、最賃周辺で働く正規労働者と、非正規労働で生計を維持せざるを得ない人の増加があることをデータで示し、今後の制度のあり方を示唆している。
編者の一人、後藤道夫都留文科大学名誉教授は、若者グループ「エキタス」が2015年に始めた「最賃1500円デモ」に参加した時の印象をこうつづる。
「沿道の関心はたいへん強く、ビルの屋上から建設労働者が手を振り、パチンコ店のプラカードを持って立つ男性がプラカードをデモ隊に大きく振るなど、たくさんの応援があった」
このまなざしの暖かさは何か。「時給千円」という実際には暮らせない目標ではなく、「時給1500円」という、ぎりぎり普通に暮らせる額のリアリティーにあるのではないか。そこに最賃が果たすべき役割への、社会の要請の変化が表れているとみる。
正社員でも「最賃プラスアルファ」で働く人の増加をはじめ、労働市場や労使関係の変化、海外事情、社会保障の現状など詳細なデータを元に分析。224円もの地域間の時給格差は、全国展開するチェーン店にとってうまみがあるという分析も興味深い。
低賃金を招く最賃ではなく、「暮らせる最賃」とすることが、地域内の再投資力を高め地域経済の持続的発展を可能にするという本書の指摘は、ぜひ中小企業のまじめな経営者に読んでもらいたい。(大月書店 2000円+税)
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