――教員を志したのは?
能登半島にある、石川県奥能登の出身です。軟式テニスがとても盛んな町でした。人口が少なく、サッカーや野球のチームを作るのは難しい。テニスは2人集まればゲームができます。小学生から始めたテニスを通していろいろな先生と出会い、いつか自分も地元の子どもたちにテニスや勉強を教えられればと思うようになりました。
教員になると、組合活動を通じて教材研究や授業を工夫する楽しさを知りました。子どもの人権や意見表明の権利などを学び、視野が広がりましたね。子どもの体験や思いを生かす場をどうやって作るかを考えるようになりました。
日教組は「ゆたかな学び」を掲げています。子どもの実態に即した教育の実践です。実例を細かく示すのではなく、教員自らが考えて議論し、授業に還元することを重視しています。
――文部科学省は新学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」を打ち出しました。日教組が掲げる「ゆたかな学び」にも共通するのでしょうか?
詰め込み教育は良くないというのは同じ考えです。しかし、この主体的な学びは、経済協力開発機構(OECD)の国際的な学習到達度調査(PISA)で、日本は読解力や思考力が低かったことに端を発しています。主体的な学びが調査の点数を上げる手だてであれば、日教組の考え方とは根本的に異なります。
「ゆたかな学び」は、点数や正解につながらなくても、子どもたちが意欲や興味関心を持ち、他の意見を聞いて新たな視点に気付くことも重んじています。別の国際調査では、正解率が高い一方、勉強の楽しさ、積極性、自信などが日本は極端に低いという結果があります。学力と学びの楽しさ、どちらも大切です。教員は、子どもが楽しく学べるように工夫したくても、じっくりと授業準備をしたり、同僚と話し合ったりする余裕が時間的にも精神的にもないのが実情です。
●業務量削減と教員増を
――文科省の「学校における働き方改革」では、教員の時間外勤務上限を月45時間とし、1年単位の変形労働時間制の導入も示されました。
目標値を設定しても、業務は減っていませんし、予算をかけない方策ばかりです。日本の教育予算はOECDの中でも下位。授業数を増やし、主体的な学びを求めるのなら、環境整備は当然です。
重要なのは、業務量の削減。業務量を減らさずに変形労働制を導入し、8月の労働時間を他の月に付け変えるというのでは根本的な解決にはなりません。
基本は教職員定数の改善です。1校に教員が1人増え、1人当たりの週の持ち授業数が一つでも減れば、負担感はだいぶ違います。授業準備をはじめ、さまざまなことに時間を使えます。文科省は1人当たりの週の持ち授業数を調査すべきでしょう。
――多くの時間外業務を自主的活動とみなし、月給4%分の調整給を払う「給特法」の廃止を求める声も上がっています。
残業時間が月8時間程度の時代の法律で、今の実態に合っていません。廃止した上で労基法を適用し、残業代を払うことが難しい状況にあるとしても、最終的には廃止や抜本的な見直しが求められます。
政府は過労死等防止対策白書を閣議決定したのですから、教員の過労死や長時間労働の実態を認めています。教員の働き方は限界に達しています。まずは、教職員定数の改善と業務量の削減で長時間労働に歯止めをかけること。その上で、残業代のあり方や定数の追加増など、さまざまな選択肢を検討すべきです。
今回の答申案で学校現場の長時間労働が是正されるわけではありません。勤務時間管理の調査など、フォローアップのための継続した検討機関の設置も必要です。
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井上 洋子 (月曜日, 02 3月 2020 19:04)
今回のコロナ感染予防の対策に際し、休校時に学童だけでなく午前中は教室を使用して教師が子供達を指導することを、積極的に提案しませんか。ただし、責任の所在を国に明らかにさせてからのことです。