――朝日新聞の政治部記者から新聞労連委員長になろうと思ったきっかけは?
一昨年の菅義偉官房長官の会見をめぐる出来事です。菅官房長官の定例会見で加計学園問題について質問をしていた東京新聞社会部の望月衣塑子さんに対して、ネットを中心にバッシングが起こりました。一部メディアも誹謗(ひぼう)中傷に加担し、殺害予告にまで発展しました。
当時私も会見を取材しており、「何とかしなければ」と新聞労連の方々にもサポートに入ってもらい、この問題について議論しました。
権力を追及するとき、どうしても記者個人が前面に出る場面が増えます。しかし、それが理由で身に危険が及ぶ可能性が高まることがあってはならない。事実を明らかにしようと挑戦した人をメディアが連帯してサポートできないだろうか、組合がその土台になれるのではと考えました。
――メディア同士の連帯が欠かせない?
国連人権理事会の特別報告者であるデービッド・ケイ氏は2017年に「日本の報道の独立性は深刻な脅威に直面している」と報告しました。特定秘密保護法などの成立に加え、日本のメディアの横のつながりが弱いという構造的な面も関係していると思います。
米国でトランプ政権に厳しい質問をしたCNNの記者が記者証を取り上げられた問題では、日頃CNNと論調が異なる保守派のフォックスニュースもホワイトハウスへの抗議に参加。世界的には、権力による報道の自由侵害に対してメディアが共闘する姿勢があります。
――長時間労働が多いメディアの働き方についてどう思いますか?
労働環境改善は必要ですが、メディアの長時間労働には外的な問題も影響していると思います。
森友・加計問題では公文書のありようが焦点になりました。本来なら行政の義務として開示しなければいけない資料を出さず、公文書の存在を認めないという不誠実な対応が続いてきました。米国では調査報道が活発ですが、それはきちんとした公文書開示に支えられています。
公的機関が今よりも情報開示するようになれば、朝夜を問わず取材をかけるメディアの長時間労働の改善にもつながるのではないでしょうか。
――新聞労連はセクハラ問題で提言を発表しました。
財務次官のセクハラを女性記者が勇気を持って告発したことで注目されましたが、メディアの内部では長い間セクハラの黙認が続いてきました。新聞労連も参加しているマスコミ文化情報労組会議(MIC)の調査では、メディアで働く女性の7割が被害に遭いながら、誰にも相談できていないという実態が分かりました。
メディアのセクハラ問題は社会全体に影響します。私たちが内部でセクハラを容認していれば、一般社会で被害が起きたときにも「よくあること」などと考え、問題の深刻さに気付けなくなってしまいます。
新聞労連では新たに10人の女性中央執行委員の公募枠を創設する方針を決めました。まず、組合の側からセクハラを容認しない体制づくりを始めるのが重要だと思っています。
――委員長として「ネクスト・ジェネレーション」という言葉を掲げています。その意味は?
現役世代はもちろん、将来世代がメディアの世界でチャレンジをしたいと思えるような業界にしていきたいと思い、「ネクスト・ジェネレーション(次世代)」を合言葉にしました。現状の課題はたくさんあるが、現場からより良い方向に踏み出していこうという意味です。
「メディア頑張れ」という声も市民から届いています。その声に応えるためにも、自分たちの業界が良い方に変わっていく姿を見せていきたいと思っています。
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