人工知能(AI)など第4次産業革命に対応し、UAゼンセンが新技術導入をめぐる労使協定を2019春闘の要求に掲げた。日本の産別では他の先駆けとなる動きだ。
●導入と運用で協議
UAゼンセンは「革新的新技術導入に向けた労使確認(例)」を策定した。ロボットやAIなど新技術の導入を前提に、生産性3原則(雇用確保、労使協議、公正配分)の再確認などを求めたものだ。
要求案は(1)革新的新技術の導入は労使協議のうえ実施し、運用に関しても労使で協議する(2)従業員の能力開発を強化し、必要な場合は雇用維持を前提に職務転換、配置転換などを行う(3)生産性向上に関しては労使協議し、株主、従業員、消費者などの関係者に適正な配分を行う――という内容だ。
特徴は、新技術の導入と運用で労使協議を求め、規制をかけていることだ。人材育成では、厚生労働省の助成金を活用し、教育訓練休暇として短期で年5日以上、長期では6カ月以上を取り組み課題に掲げている。
加盟組合のあるファミレス大手ロイヤルホストは、次世代型店舗開発でIT化を推進。自動配膳や食器洗浄ロボットをパナソニックなどと共同開発し、職員の労働時間短縮や年次有給休暇取得などで効果をあげている。
●スト背景に労使合意
米国でもホテル・商業娯楽施設でフロント業務の自動化や調理ロボットなどの新技術が導入されている。料理人や客室係の解雇や職種変更に対し、UNITEHERE(接客業労働組合、27万人)がスト権を確立して労使協定を締結している。国際労働財団が10月に開催したシンポジウムで報告された。
新技術導入に対する雇用確保などを掲げ、同労組のラスベガス支部が5月、スト権投票を背景に全市規模で交渉を展開。新技術を導入するには180日前までに組合に通知することや、労使交渉、再雇用、就業訓練など5項目で合意した。
ドイツのIGメタルも9月の金属労協とのシンポで「技術進歩は社会の進歩につながらなければならない。グローバルな規制と政労使による就労者保護へ職場の従業員代表委員会と強い組合の連携が重要だ」と強調した。
●労災放置される働き方
第4次産業革命は大量の雇用減や労働移動、雇用関係のない働き方を生む。最低賃金や労災保障など労働法制が適用されない就労者の保護が大きな課題となっている。
法政大学フェアレイバー研究会などが11月に開いた会合では、非雇用就労者の課題を話し合った。食品宅配サービス「ウーバーイーツ」で働く青年は、交通事故にあったが、個人請負契約だとして対応してもらえず、就労を中断。事業者への規制を訴えた。欧米では訴訟で就労者の労働者性が相次いで認められ、規制を強化している。日本でも規制が求められる。
●ウーバー組織化進む
非雇用就労者の組織化について、国際運輸労連(ITF)内陸運輸部会長の浦田誠さんは「既存の組合とは違う新たな運動が重要」と提言する。ロンドンでウーバー運転手のストなどを支援しているIWGB(英独立労働組合)は、組織化を進め、オランダやベルギーでも組織を拡大しているという。
米国ワシントン州シアトル市では、ウーバー運転手の労働組合を認める条例を制定したが、連邦高裁は独占禁止法違反と判断した。一方、権利擁護団体「フリーランサーズユニオン」(37万人)はニューヨーク市で契約報酬を擁護する条例の制定に成功した。
フランスは法律で非雇用就労者の団結権、団交権、スト権など労働三権を保障している。
●産業の境界が変化
今後AI化により産業構造が変化する。神戸国際大学の中村智彦教授は8月、UAゼンセン流通部門が主催した会合で講演し、ITの普及で情報、製造、輸送、流通の結合による産業のボーダーレス化が進むと述べ、産別の対応を提起した。
同教授は、トヨタが開発を進める「eパレット」を紹介。自動運転によって無人バスや宅配、移動型店舗が可能となり、「自動車会社が総合交通物流化する」と指摘し、自動車産業がサービス流通分野に参入する可能性を示唆した。
その後、トヨタとソフトバンクは10月に提携し新会社を設立した。豊田章男社長は「製造業からサービス業への転換」を打ち出し、孫正義会長兼社長は「自動車は半導体の塊になる」との見方を示している。
法政大学の中村圭介教授も9月の連合総研の交流会で「産業構造の変化に対応する産別変革が求められているが、組合は立ち遅れている」と対応を促した。
●運動と立法の両輪で
労働政策審議会の労働政策基本部会は「諸外国の議論も参照」にしながら、AI化による労働移動や非雇用就労者の「法的保護の必要性の検討」を掲げた。10月に厚生労働省内で始まった、雇用類似の働き方の保護の検討では、労働者概念の拡張や、特別の規制、経済的従属性の考慮などが課題とされている。
労組や関連団体、研究者の会合では、非雇用就労者の保護について、最低報酬や、解約・違約金などの紛争解決、能力開発支援と公正な評価制度、同業者団体との集団的労使関係、労働協約の拡張適用――などの検討が指摘された。技術革新に対し、労働運動と立法の両面の取り組みが重要となっている。(ジャーナリスト 鹿田勝一)
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