働き方関連法の一環として、派遣労働者の賃金水準を改善するための国の指標案に批判が強まっている。労働政策審議会に示された国の指標案が実際の派遣労働者の平均賃金の水準さえも下回っているためだ。派遣労働者の処遇改善を求める団体は「法違反」だとして是正を求めている。
●最賃並みが「平均」?
同法では、派遣労働者の賃金について、初めて派遣先労働者との均等・均衡処遇規定を設けた。同時に、派遣元で賃金に関する労使協定を結べばその適用を逃れられる道も敷いている。
労使協定で定める賃金水準は、「同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金」を上回ることが同法の要件。労政審ではその指標案を審議中だ。
指標案は、職業安定所の求人賃金の下限の平均などから、職種ごとに、それぞれ最も低い「基準値(勤続0年)」を設定した。
基準値は、たとえば「一般事務」だと、時給1016円。しかし、この水準は、一般労働者どころか、実際の派遣労働者の平均賃金さえも下回る。2017年の国の派遣事業報告で示された派遣労働者の平均賃金は一般事務が1259円(時給換算)。このようにほとんどの職種の基準値が派遣労働者の平均を下回っている。
NPO派遣労働ネットワーク(中野麻美理事長)は「『平均的な賃金の額』を示すものではなく、改正法に違反する」と指摘する。11月13日には同省に是正を要請した。
●幻の「労使」に丸投げ
指標案では、「基準値」に一定の指数を乗じ、勤続1年、2年、3年、5年、10年の時給も示した。「一般事務員」だと、勤続3年で1347円、10年で1651円と、年数に応じて金額を引き上げている。
ただ、厚労省によると、あくまで参考値で、どの数字を採用するかは派遣会社の労使に委ねるという。
「労使」といっても、ほとんどの派遣会社には労組はなく、過半数代表が協定の締結者となる。使用者寄りの者の選出を防ぐことや、派遣労働者の意見を集約することの保障はない。17年間派遣で働いてきた女性は「(過半数代表から)意見を求められたことなど一度もない」と同省の説明に疑問を呈す。
最も低い基準値が何年たっても適用され続けることを防ぐ規定はなにもない。結果として、基準値だけが派遣労働者の賃金の下限として機能することになると予想される。派遣ネットは、指標案が「賃下げ圧力」「賃金抑制」として使われるのではないかと危惧する。
●法の主旨に反する
16日の同一労働同一賃金部会では、指標案の低さ、労使協定に委ねることの是非が問われた。
労働側委員の村上陽子連合総合労働局長は「派遣先との均等・均衡処遇が原則で、労使協定方式は例外だったはず。一般労働者の平均的な賃金以上と定めているのに、違和感を覚える。できるだけ平均に近づけるべき」と指摘。協定の賃金を労使に委ねていることについて「組織率は低く、労使自治の実態はない」と苦言を呈した。
均等・均衡処遇は派遣先が嫌がることを考え、派遣会社は協定方式に傾くことが予想される。その賃金水準は今後の派遣労働者の処遇を左右しかねない。
部会は年内にも取りまとめを予定している。
〈写真〉労働政策審議会の同一労働同一賃金部会。派遣労働者の賃金に関する厚生労働省の指標案には、最低賃金を下回るものも。「(同一労働同一賃金の)看板に偽りあり」の内容だ(11月16日、都内)
コメントをお書きください