「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    インタビュー/労働行政のあるべき姿を追求/全労働の鎌田一委員長

     9月の全労働大会で委員長に就任した鎌田一さん(57)。政府が「働き方改革」を進める中で、労働行政の現場では何が課題になっているのかを聞いた。

     ――国公労連で5年間、書記長を務めた。全労働に戻り、今大会で感じたことは?

     鎌田 労働行政の職場が様変わりした印象を受けた。特に(職業)安定行政や雇用均等関係では助成金に関する業務が飛躍的に増えたと思う。監督署でも(法違反の取り締まりや労災認定など)従前の業務以外の「支援」などの仕事が増えたことに驚いた。

     ――厚労省はこの間、監督官を増やしてきたのでは?

     鎌田 監督体制を強化するのはよいが、そのために労災担当者が減り、労災認定の体制が脆弱(ぜいじゃく)になるのは問題だ。認定業務は複雑で専門性が高い。過労死事案はもとより、職業性疾病など、困難なケースは1~2カ月かかることもある。働けない労働者にとって、労災給付は生活の糧。(労災担当の人員不足で)認定がさらに遅れれば、受給者に迷惑がかかるのは明らかだ。

     ――働き方改革との関係では、監督官の増員は36協定のチェックや長時間労働の是正にプラスでは?

     鎌田 監督署の仕事は連携が大事。法違反を取り締まる監督と、被災した労働者を救済する労災、事故を未然に防ぐ安全衛生――この三つが連携して成り立つ。例えば、労災申請を受けて、悪質な企業だと判明したら、法違反がないか監督官に知らせる。常に連携する必要があり、どれかが抜け落ちると、問題が発生する。

     政策を作る場合は本来、現場の実態を踏まえることが必要。ところが最近は逆で、トップダウン型。労働行政の現場を知らずに政策を立案するのは問題だ。長時間労働抑制のためと言って、36協定の時間を短くした事業主に助成するのはおかしい。

     

    ●技官採用の再開を

     

     ――災害防止を担う厚生労働技官の採用は10年前から停止されたままだ。

     鎌田 人の命に関わる技官の採用は再開すべきだ。エレベーターやクレーンの検査、工事計画届のチェックには高度な専門性と経験が求められる。

     ――外国人技能実習機構に出向している監督官もいる。

     鎌田 機構は発足から日が浅く、大変な業務だ。実習生は労働者であり、監督署でも指導可能なのだから、機構は監督署と連携すべき。

     政府が労働力として外国人の受け入れを増やす以上、労働行政は体制強化を図り、指導監督を強めなければならない。実習生という名目ではなく、雇用許可制など外国人を労働者として正式に受け入れる仕組みも必要である。

     ――ハローワークの相談業務では職員の非正規化が進んだ。

     鎌田 組合員化の取り組みも進めている。相談業務は高い専門性が求められるものの、処遇が低い。雇用不安にさらされているのが最大の問題だ。無期転換制度を導入すべきであり、最低でも3年に1度公募するやり方は廃止すべき。

     ――大会では5年ぶりに労働行政研究の実施が決まりました。

     鎌田 労働行政の各種施策が国民、労働者の権利を本当に保障しているかを検証する。外部の意見なども取り入れ、施策が適切か検証し、本来あるべき方向を提言などで発信したい。

     ――なぜ、労働行政の道を選んだのか?

     鎌田 高校生の頃、小学校の建設現場でバイトをした時に、割増分の賃金が支払われなかったのがきっかけ。労働基準法を勉強してみたら、労働行政をつかさどる役所もあるのだ、と。その時の割増賃金は労基署を介さず、社長に直接交渉してみんなの分も払ってもらった。

     ――労働組合にも関心が?

     鎌田 若い頃は、国鉄マンだった父を見ていて、実は組合にあまりいい印象を持っていなかった。だが全労働には平和運動の伝統があり、青年部の頃は先輩とよく議論した。戦争が起きれば、勤労動員で、労働行政も何もなくなる。社会のセーフティーネットの土台は平和。平和がないと社会は機能しないと教えられた。