昨年、最低賃金を16・4%引き上げた韓国。今年の改定審議はやや減速したものの、それでも10・9%を引き上げ、来年8350ウォン(835円)となる。日本の34県を上回る水準だ。日本弁護士連合会貧困問題対策部の中村和雄弁護士は今夏、韓国の行政機関や経営・労働団体、研究機関を訪ね最賃事情を調査。このほど都内でその結果を報告した。
韓国の最賃は2010年以降、5~8%の高いペースで引き上げられ、17年の文在寅大統領就任を機にさらに加速した。同大統領は「2020年までに1万ウォン(千円)実現」を掲げて当選。大幅な引き上げを決めた。
日本にとって参考になるのが、引き上げの影響を受ける中小零細企業への支援策だ。中村弁護士によると、従業員30人未満の中小事業者に対し、社会保険加入を条件に税金で賃金の一部を直接補填(ほてん)する。そのための予算として一般会計から3兆ウォン(3千億円)を支出した。来年もこの制度の継続を予定している。
次が社会保険料の事業主負担の減免。従業員5人未満の中小事業主には負担分の90%、5~10人未満には80%を減額する。社会保険料の負担軽減は赤字企業も恩恵を受けることができるため、税の減免よりも大きな効果が期待される。そのほか、クレジットカード決済手数料の一部国負担を予算化した。
現在、事務所の賃借料引き上げ率や、フランチャイズ手数料の上限規制を検討しているという。
●逆風と厚みある運動と
手厚い支援だが、それでも「多くの零細事業主は経営継続が困難になった」との声が強まった。17年の大統領選で主要候補はおしなべて1万ウォン実現を掲げていたが、選挙後、野党は引き上げの抑制を主張。韓国は全国一律での金額設定だが、日本のように地域別の制度とするよう経営側が主張し始めているという。
メディアや野党の宣伝を反映し、今年の改定率はペースダウン。20年の1万ウォン達成は厳しくなった。それでも引き上げ率は10・9%。日本が今年3%引き上げて注目されたことと比べると、桁違いだ。中村弁護士は「経営者団体も近い将来1万ウォンとすることには理解を示している」と話す。問題は、そこに至るペース。零細事業者の声を聴きながら、いかに有効な政策を打ち出すかが問われる。
一方、最賃引き上げの機運を醸成してきたのが、02年に2大労組ナショナルセンター(韓国労総と民主労総)や市民団体、研究者団体など32団体でつくる連携組織「最低賃金連帯」の運動だ。数万人規模で集会を開く「社会的ストライキ」などで世論を盛り上げ、16年間で金額を4倍に引き上げる力となった。
●審議会に幅広い声を
中小企業支援や、市民団体との連携と併せて、中村弁護士が注目するのが、最賃改定を審議する審議会の構成だ。
韓国では日本と同様、公労使の計27人で構成される。労働者委員は従来、組合員比率に則して韓国労総5人、民主労総4人と振り分けてきたが、15年以降は2大労組が、どちらにも加盟していない韓国青年ユニオンと非正規労働センターに委員ポストを譲った。青年ユニオンは改定審議の様子をユーチューブで知らせるなど、若者らしい取り組みを展開し、機運醸成に一役買った。
同弁護士は「2大労組を合わせても組織率は10%程度。議論した結果、『たった10%で全労働者を代表する委員を独占していいと考えるのはおかしい』という結論に至った」とのナショナルセンター関係者の話を紹介した。
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田村 (土曜日, 09 3月 2019 03:46)
韓国より日本の事を考えて下さい。韓国の司法がまともとは思いません。、