文部科学省の中央教育審議会・学校における働き方改革特別部会が10月15日に開かれ、1年単位の変形労働時間制の導入モデルが示された。このまま変形労働時間制の導入ありきで結論がまとめられるのか、議論の行方が注視される。
東京都と岐阜市の教育長が働き方改革の取り組みについて報告。いずれも夏休みの学校閉庁日活用などによる実践を踏まえた上で、1年単位の変形労働時間制の導入に積極的な姿勢を見せた。
文科省事務局は教員の本来業務の見直しや時間外業務の範囲、賃金に課題があるとした上で、変形労働時間制の具体的なモデルを示した。モデルでは授業が少ない8月などの勤務時間を減らし、その分を学期中の時間に割り当てる。現行の勤務時間は7時間45分だが、週3日を8時間45分勤務にするパターンを提示。これで年間15日間の休日を確保できるという。制度の導入は地方自治体の判断に委ねる考えだ。
勤務時間内に業務が収まっている教員も変形労働時間制の適用対象になれば、1日の拘束時間が延び、負担が増す。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの善積康子主席研究員は「(休業期間に)休日が多くなるからいいという話ではない」と述べ、導入手順の詳細をガイドラインに書き込むよう求めた。
公立学校の多くは3学期制が主流だが、2学期制を採用している学校も少なくない。授業数の増加によって、授業時間を確保するために夏休みが短縮される傾向もある。千葉大学教育学部の天笠茂特任教授は3カ月ごとの4学期制を提案。「地域によっては気候の問題もあるが、夏休みだけに集中させるよりも1年間でバランスの取れた休みの計画が必要。旧態依然ではなく、学校自らが1年間の過程を見直し、勤務のあり方を連動させるべきではないか」と述べた。
教育マネジメントコンサルタントの妹尾昌俊氏は、「受験や部活動指導などで8月、12月に休みを取れない教員もいる。スポーツ大会の見直しなど具体的な措置を取らないと、変形労働時間制だけでは難しい」と指摘。1年単位の変形労働制が導入されている国立大学付属校の実例を示すよう事務局に求め、「使用者側だけでなく、(時間管理を行う)管理職や教員がどう考えているのか声を拾っていただきたい」と要望した。
妹尾氏は、特定の業務以外は時間外勤務とみなさず、残業代の代わりに4%の調整給を払う給特法について、改めて問題提起した。「(長時間労働の温床とされる)給特法の法改正が本筋ではないか」と変形労働時間制の導入ありきの議論を批判。教員の過労死が給特法を根拠に救済されないケースも多く、「明示の指揮命令がなくても、(時間外労働が)裁判で認定された事件もある。教員の時間外勤務だけを労働と認めないのは問題。大きな論点ではないか」と迫った。その上で「教員の専門性を強調するなら、プロだからこそ対価を払うべき。給与よりも(効果的な)教職員定数を改善してほしい」と訴えた。
「教員の声聞いて!」/ネット上に反発の声
この問題では、組合未加入の現役教員らがネットで活発に発信している。SNSのツイッター上では長時間過重労働の実態やパワーハラスメントを匿名で告発する教員も多い。署名サイトの「チェンジオルグ」で給特法改正を訴える署名運動も展開。教員の働き方を問うサイトの「教働コラムズ」では中教審の議事録を独自に順次掲載している。
教員グループ「現職審議会」は昨年12月、中教審の中間まとめに対して提言を発表、記者会見を開き注目を集めた。メンバーの斉藤ひでみさんは傍聴の感想をツイッターに投稿。「ここまで教員の思いが踏みにじられるとは。何のための『学校における働き方改革』か。悔しい。不誠実極まりない」と怒りをあらわにした。
神奈川過労死等を考える家族の会代表の工藤祥子さんは教員の夫を過労死で亡くした。工藤さんも傍聴後にツイッターで「必要な人たちが知らないうちに、みんなが望まないだろう方向に決まっていくんだな。だまし討ちにあったよう…誰のための何のための改革? とても悲しい気持ちになる…本当にこれで良いの?」と心境を吐露した。
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