中小製造業の集積地、大阪の金属製造業労組でつくるJAM大阪では近年、労働組合・労働協約つぶしの動きが相次いでいる。きっかけは企業再編と経営者の代替わり。短期利益を追い求めて、働く者をないがしろにする経営者の存在が影を落とす。組合は団結を固めて職場を守っている。
●札付き企業との闘い
連合も支援する争議では日本コンベヤ(東証1部上場)の争議が継続中だ。企業買収によって急拡大したTCS(東京コンピュータサービス)が同社の株を買い占め、2013年に資本提携して以降、組合つぶしが今も続く。
TCSに経営権を握られた企業では、執拗(しつよう)な労組つぶしが行われる。持ち株会社を設立して既存労組との労使関係を断ち切り、新規組合加入の道も断つ。組合員・組合役員を狙い撃ちにした一時金不支給、嫌がらせ配転、不誠実団交など、労働委員会から救済命令が出ても同じことを繰り返し続ける。
少なくない組合が解散や活動停止に追い込まれる中で、日本コンベヤ労組は健在だ。年内にも大阪府労委から救済命令が出されるとみられる。それを見据え9月12日、同社に対し、誠実協議、組合事務所の貸与継続、労働協約破棄申し入れの撤回、持ち株会社採用の中止――などを求めた。
JAM大阪の佐村達生書記長は「命令のタイミングに合わせて現場で解決を迫る取り組みを強める。会社役員、管理職にも、何とかしなければならないと考えている人がいる。『会社よりも一日でも長く闘って勝つ』という構えでJAM大阪を挙げて支援していく」と話している。
●守る力があってこそ
TCSとは別に、8月には一つの争議が解決した。繊維大手グンゼのメカトロ事業部でユニオンショップ協定を結ぶJAM大阪の組合が、事業部つぶしの動きにブレーキをかけた。
同事業部は1989年、当時の全国金属(JAMの前身)加盟労組があった新大阪造機の合併により設立された。合併の際、グンゼと新大阪造機労組との間で労働協約の全面的な継承を確認。その中の「事前協議同意約款」の条項が効果を発揮した。他の事業部との人事異動には「組合の同意」が必要という強い縛りが特徴。合併後に事業部の一方的切り捨てをさせないことと、社内で圧倒的多数を占めるゼンセン同盟(UAゼンセンの前身)の社内労組に吸収されないための布石だった。
争議は同事業部が5月、他労組加入の新入社員を配属させたことが発端。組合は事前協議同意約款に違反するとして是正を求めたが、事業部側はかたくなで、組合は指名スト、時限ストを行った。
組合が「出張拒否」を構える中、ついに同事業部は配属が協約違反であることを認めて謝罪し、配属を撤回した。
合併時は高収益の事業だったが、年月を経て一時業績不振に陥り、組合が再建策を示して黒字に反転させた経緯がある。グンゼは2015年には長い歴史を持つ倉吉工場(鳥取)を閉鎖した。今回の一連の動きは、JAM加盟労組の影響力を弱め、事業部をなし崩しにつぶそうとしたのではないかともみられる。
合併当時交渉した狩谷道生JAMオルガナイザー育成推進室室長は「労働協約は、守らせる力がなければただの紙切れ。実力で守らせなければならない」と、労組の奮闘をたたえる。
●腹いせに不当労働行為
経営者の代替わりがきっかけで発生した争議も複数ある。鍛造品製造の企業では、他業種から転じた、創業者の息子の代表就任以後、労使関係が急速に悪化した。生活は派手で、ヨットにジェットスキー、高級車を複数所有。顧問弁護士はテレビの人気情報番組に出演する人物だという。
17年の春闘で組合は24時間ストを重ね、ようやくベア500円を獲得した。その直後から、攻撃が始まった。組合事務所からの退去要求に加え、事前協議同意約款の破棄、争議条項の見直しといった労働協約の全面改訂を仕掛けてきた。
JAM大阪の清水隆生副書記長は「ベアの腹いせだろう。会社の代表は『この強い協約をなんとかしてほしい』と不当労働行為そのものの発言をしていた」と振り返る。組合は「不当労働行為の協議に応じる必要はない。申し入れ自体不当だ」として謝罪を要求、協議には応じなかった。
応じれば「組合と協議したが合意に至らなかった」という既成事実を与え、90日後の労働協約破棄成立を主張されることが予想された。最近「労働組合対策」を売り込む一部の社会保険労務士や弁護士が、この手の協約つぶしを「指南」する事案が増えていると、佐村書記長は憂う。
協約改訂をめぐる攻防は組合側の完全勝利。業を煮やした経営側は、ささいなミスを理由に始末書提出を求めたり、一方的な降格人事を行ったりしている。組合掲示板の撤去や食堂利用の禁止など、組合の便宜供与にも矛先を向け、外国人技能実習生や非正規労働者を増やし、組合との引き離しを図っているという。
●根腐れする日本経済
現在争議となっているのは4労組。今後3労組で争議化が予想される。共通するのは、強い労働組合と労働協約の存在だ。
佐村書記長は「物づくりや経営が分かっていない経営者が増えている。現場に人を入れておきさえすれば物が作れると思っている。今は高い技術力や経営の先見性がない限り、既存の商品を売り続けるしかない。そうなると価格は下がっていくので、出費を削ろうという発想になってくる」と指摘する。
さらに気になることもあるという。「大阪の中小企業の工場では終戦直後のむちゃくちゃ古い設備があるのを見かける。そういう工場では高い技術力のある技術者がいて何とかもっていたが、多くが定年を迎えつつある。今から人を育てても10年はかかる。短期利益ばかりを追い求めてきた結果、今後廃業がますます増えるのではないか」
狩谷氏も「経営者らしい経営者が減っている。イノベーション(新基軸)を起こそうにもどうしたらいいのか分からないのだろう。だから固定費である人件費を減らす。強い組合があればつぶしにかかる。中小400万社の3分の2が世代交代を迎えている中で起きていること」と見る。
中小企業の廃業は増加傾向にある。一方で、幸運にも代替わりできた企業や、買収で事業を存続させた企業で待ち受けているのが、短期利益優先で人件費削減に走る経営。JAM大阪で相次ぐ争議は、日本経済の一断面を映し出している。
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