「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    労働時評/変化の時代にどう対応するか/主要産別大会を振り返る

     労働運動が問われる変化の時代――。この夏開かれた各産別の大会では、19春闘構想、働き方改善、人工知能(AI)対応、9条改憲論議が焦点となった。

     

    ●自動車、ベア明言せず

     

     連合加盟産別の大会では19春闘のベア要求について足並みが乱れている。

     全トヨタ労連の鶴岡光行会長は「ベアだけを焦点とした取り組みが本当にいいのか。ベアは非常に大事で放棄しないし、絶対額は要求していくが、子育て支援など幅広い要求を検討」と記者会見で語っている。

     18春闘でのトヨタのベア非公開について自動車総連は「大手追随・準拠の春闘に対する経営側の問題意識の表れ」としつつ、賃上げ成果を共有できない状況は「共闘効果を損ない、組合員への説明や取り組み評価を困難にする。こうした姿勢が無為に広がってはならない」と指摘。金属労協も「社会的相場形成で大手の賃上げ額が成果配分の重要な物差しとなっていることを共通の認識にする必要がある」とした。

     ただ、自動車総連の高倉明会長は19春闘でのベアについて明言を避け「格差是正、底上げの前進へ要求や闘争のあり方、上げ幅だけでなく、絶対額(賃金水準)重視など、議題を整理して臨みたい」との見解を示している。

     手当込みの賃上げは経団連やトヨタが2年前から推進しており、ベアの低位分散化として要注意である。

     

    ●産別の多くはベア志向

     

     他方、多くの産別は18春闘のベア要求2%を踏まえつつ、14春闘からのベアを継続する方針だ。

     JAMの安河内賢弘会長は個別賃金の成果をアピールし、世界経済の順調な推移や個人消費の改善、消費者物価の上昇に加え、労働分配率の低迷などを理由に「マクロ経済が示す数値からは来年の春闘を減速させる必要はない」と強調。金属労協の春闘総括を踏まえ、「賃金水準と賃上げ額の両立による相場形成と社会的な波及効果」の強化も主張している。

     電機連合の野中孝泰委員長は、不透明な経済情勢だけに個人消費と内需拡大による経済の自律的成長や公正分配へ賃上げを継続し、「社会的責任型の闘争」を呼びかけている。

     基幹労連は今年の2年サイクル春闘でベアを獲得した。単年度要求の組合は19春闘で既定方針どおりベアを要求する。

     UAゼンセンはベア要求と賃金水準を設定し、大手先行の高額相場を中小、非正規へ拡大させる方針だ。

     フード連合もベア要求を継続し、先行大手の回答を中小に波及させ、「目線を下げない」春闘を提起している。

     連合は中小の底上げと個別賃金の引き上げを重視する方向。内部留保が446兆円に増大する中、労働分配率の低下や実質賃金マイナスなど、分配構造のゆがみを是正するベア春闘は、連合と大企業労組の社会的な責任となろう。

     

    ●36協定で社会運動

     

     官民とも働き方改善の要求が目立った。連合は時間外労働の上限規制へ36協定の見直しを重視し、キャンペーン「ACTION36」を展開する。高プロ制に対しては各組合とも不要とし、職場への導入阻止を決めている。

     新聞労連は派遣労働者の正社員化を求めたほか、民放労連はセクハラの根絶を強く求めている。

     国公労連は、森友・加計疑惑での公文書改ざん、隠ぺいなど安倍政権の国政私物化に対し、国民のための行政提言を策定。内閣人事局の廃止や内部告発権の保障、労働基本権の保障など14項目が注目される。

     

    ●AI対応も課題に

     

     今年の産別大会は、官民を問わず、新たな課題として人工知能(AI)など技術革新と働き方の課題が焦点となった。第4次産業革命で、大量の雇用減、労働移動、個人事業主化など非雇用就労者の増大、労働法制破壊が予測される。早急な対策が求められる。

     金属労協はAIなど第4次産業革命について政策研究を進め、9月に東京でドイツの金属労組などとシンポを開催。ホフマン会長は500万人の雇用減・移動を想定する「地域事業所マップ」の取り組みを紹介しつつ、「技術進歩は社会の進歩につながらなければならない。グローバルな規制と政労使の就労者保護政策が必要。職場では従業員代表委員会と強い組合の連携が重要だ」と提起した。

     UAゼンセンはAIやロボット活用など産業政策で集会を開催。AI活用による職員半減化を提起する総務省の「スマート自治体」構想に、自治体労組は反発し対応をまとめる方針だ。

     

    ●ゼンセンは改憲へ前向き

     

     9条改憲問題も緊迫してきた。自民党の総裁選で3選された安倍首相は、臨時国会で9条に自衛隊明記の改憲へと暴走している。

     連合は6月の中央執行委員会で「改憲を議論する環境にはない」ことを確認済みだ。産別大会では、自治労、日教組、私鉄総連などが改憲発議阻止と国民運動の強化を決めた。一方、UAゼンセンは「中執見解」として「武力行使を含む平和維持行動へ、国民的な合意を前提に、憲法、法律の整備」を大会で報告した。

     全労連は1850万筆超を集約した改憲阻止3千万署名の推進を決定。医労連は約150事業所に広がった「戦争に協力しない」労使共同宣言・協定の拡大を進め、JMITUはストを含めた国民投票阻止の闘争を決めている。

     全労協や平和フォーラム、全労連などによる、総がかり行動実行委員会は共同集会を9月に開催。参院選を視野に改憲阻止・安倍退陣へ市民・野党・労組の共闘拡大を呼びかけた。(ジャーナリスト 鹿田勝一)