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    〈働く・地方の現場から〉/障害者雇用率も虚偽なのか/ジャーナリスト 東海林智

     「情けない国だと思った」

     障害者の雇用問題に取り組んでいるNPO(非営利団体)の役員に、中央省庁の障害者雇用の偽装・水増し問題への意見を聞くと、吐き捨てるようにこう言った。障害者雇用の偽装・水増しは、霞が関にとどまらず、都道府県など地方自治体でも同様のごまかしが明らかになった。私も厚生労働省で長年取材してきた記者として、行政機関のうそを見抜けなかったことにじくじたる思いがある。同時に、この国の役所はどこまで腐っているのかと恐ろしさすら感じる。

     厚労省が8月28日に公表した調査結果によると、中央省庁が国のガイドラインに反して、不正に障害者雇用率に算入していた人数は国の33行政機関のうち、27機関で3460人に及んだ。2017年度に中央省庁が雇用しているとした障害者の数は約6900人だから、半数近くを不正に水増ししていたことになる。問題が発覚した省庁は、最初に明らかになった国土交通、農林水産、総務の各省に加え、法務、文部科学、防衛、財務、経済産業、気象庁などに及ぶ。

     

    ●「認識不足」は不自然

     

     その手口はこうだ。原則として障害者手帳を持つ人や児童相談所などで知的障害と判定された人を障害者雇用として算入、雇用率を算出するのだが、各省庁は障害の程度が比較的軽く、手帳を持っていない職員を算入した。本来、算入すべきでない人を計算に入れ、"水増し"したのだ。各省庁は「制度の認識不足」との言い訳を並べる。だが、障害者雇用促進法に基づき、厚労省の作成したガイドラインは、障害者手帳所持者が雇用の対象という原則が書かれている。こんなに多くの省庁が、制度の原則を知らないというのは、不自然に思えてならない。むしろ、厚労省が霞が関向けの「裏ガイドライン」でも作っていたのではという疑いさえ持ってしまう。

     障害者の法定雇用率は国や自治体が2・5%、教育委員会が2・4%、民間企業が2・2%(共に今年4月から0・2ポイント引き上げられた)である。官庁は民間より高い雇用率が義務づけられているにもかかわらず、実際は民間よりずっと低い数字になる。

     

    ●どこが一億総活躍か

     

     障害者雇用率を巡っては、厚労省の担当者と何度かやりとりをした。その中でよく覚えているのが、14年に厚労省所管の独立行政法人の労働者健康福祉機構での障害者雇用率水増しと虚偽報告が発覚した時のことだ。その時、厚労省は、適切な運用がされているか他の独立行政法人も調べると発表した。独法には厚労省の官僚も天下りしていたこと、さらに省庁には雇用率未達成に罰則が適用されないことから、会見で「独法だけではなく、各省庁も調べるべきではないか」と質問したが「中央省庁はより高い倫理観を持ってやっているから調べる必要は感じていない」と答えた。仲間意識か省庁性善説に立つからなのか、少なくとも、4年前に厚労省が霞が関の不正に気付く機会があったことは確かだ。

     新潟県は、不正な水増しはなかったとしている。しかし、今年1月、県庁で働く、障害を持った女性が、在職中に亡くなった。死亡直前の2カ月間は月100時間を超える残業を強いられており、過労死とみられる。県は他の障害を持つ労働者の労働時間を調べているのかとの毎日新聞の取材に「把握していない」と答えるのみだ。

     今回の水増し問題の背景にも障害者の労働にきちんと向き合わない姿勢があるのではないか。「一億総活躍社会」が聞いてあきれる。