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    労働時評/影響力高まる最低賃金/賃金と最賃闘争の結合を

     地域別最低賃金が全国平均で3・06%引き上げられ、時給874円(26円増)となった。まだ低い水準だが、引き上げの影響率が高まり、平均賃金に占める割合も40%台後半に達した。今後は特定(産別)最賃の改定が争点となる。賃金と最賃闘争の動向と運動の結合に焦点を当てた。

     

    ●目安超えが大幅増

     

     最低賃金制は、労使の団体交渉と別個のものではなく、両者の効果的な組み合わせが重要とされる。労働協約による最賃と、法定の地域別最賃、特定最賃の三つがある。

     最賃制の土台は地域別最賃である。違反した使用者には50万円以下の罰金が科せられる。8月中旬に47都道府県の地方最賃審議会で答申が示され、3年連続3%台引き上げで、時間額表示に変更した2002年以降最高額となった。

     ただし水準は低い。政府の掲げる「20年までに最低800円、全国平均1000円」への到達にはほど遠く、700円台が19県もある。上げ幅は東京の27円増から鹿児島の24円増までの差があり、地域間格差は224円に広がった。

     一方、格差是正や人材確保などから低額県を中心に23県が目安を1~2円上回った。「目安超え」は昨年の4県から大幅に増えているのが特徴である。

     

    ●パートへの影響率46%

     

     法定の地域別最賃の金額水準には三つの前進の兆しがある。

     第一は春闘の賃上げ率を上回る引き上げ率である。2013年に32年ぶりに最賃が定昇込み賃上げ率を上回った。同年の賃上げ率は1・80%だったが、最賃は2・00%、16年は2・14%に対し3・13%、17年は2・11%に対し3・04%、18年は2・07%(連合、全労連集計)に対し3・06%アップである。

     第二は、最賃改定後に賃金が上がる労働者の割合を示す影響率が高まっていること【表1】。06年の1・5%から16年度は11・0%、17年は11・8%へと拡大した。特に大阪が20・3%、神奈川が18・3%と5人に1人に及ぶ。パート労働者への影響率を調べた民間調査で大阪は48・0%となっている。

     第三は、最賃が賃金水準に占める割合を高めていることだ【表2】。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(10人以上)によると、時給比で06年の37・2%から17年は46・0%へと高まっている。短時間労働者(同10人以上)については、17年で77・4%に達している。最賃は官民の正規、非正規労働者の賃金にその影響力を高めている。

     

    ●金属1800組織が協定

     

     産業別の特定最賃の改定審議も本格化する。焦点は経団連など経営側の特定最賃抑制・廃止に対する労働側の反転攻勢である。

     法定の特定最賃は日本では唯一、企業横断的な賃金決定システムとして85年に今の仕組みの基礎が整備された。86年の496件を最高に、組織率低下や経営側の反対で現在では232件に半減するなど、苦戦が続く。地方最賃審では、使用者委員の横暴により「改定の必要性なし」となるケースが増加し、88%で引き上げ額が地賃を下回る。

     金属労協はこの課題を重視。1月に全国会議を開き、春闘では年齢別最低保障を含めた企業内最賃協定に注力した。自動車や電機など5産別で約1800組合が締結する。私鉄総連は法定ではないが、産別の最賃を中央統一交渉で協定している。医労連は全国一律産別最賃の新設を厚労相に申し入れたが、対象労働者数3分の1以上の合意という要件を満たしていないとして、諮問の対象にされなかった。

     同制度をめぐっては、15年に成立した「職務待遇確保法」の付帯決議で、「欧州の協約賃金に鑑み、わが国においても特定最低賃金の活用検討を」と明記。産業別の横断賃金決定へ、特定最賃の強化は重要課題である。

     

    ●全国一律制の実現へ

     

     最賃制は現在、転機を迎えている。

     地域間格差の拡大と若者の県外流失に歯止めをかけようと、山形県が6月、「ランク制廃止」「全国一律の適用」を政府に要請。福井県知事も全国一律千円の持論を展開した。直近の4年間では248自治体が格差是正などの意見書を採択している。地方の経営者団体も最賃効果に期待を高めている。7月の全労連大会では初めて賃金と最賃闘争との結合が単産、地方から要望された。

     運動を構築するうえで、優れた海外の制度を参考にすべきだろう。欧米の最賃は1200円前後の水準に達している。フランス、ドイツなどは協約賃上げと最賃が連動し、国際労働機関(ILO)は最賃と団体交渉の効果的な組み合わせを奨励している。

     全国一律最賃制は世界59カ国に上り、日本のような地域別の設定は9カ国に過ぎない。政府の最賃引き上げ支援策も米国は中小企業の減税、フランスは社会保険料の減免措置、韓国では医療費負担の控除などが行われている。水準は、フランスが平均賃金の65%を占め、ドイツは60%を目標に設定している。

     一方、日本では、全労連などが60%を目標に掲げている。北海道から九州まで17道府県の調査で、生活に必要な最低生計費は月額22~24万円、時給約1500円と、ほぼ全国で共通する結果となった。

     今後の運動展開では(1)ILOの最賃条約「まず生計費を充足し組織労働者の賃上げを考慮」の理念(2)春闘での社会的賃上げ相場の形成(3)企業内最賃協定の産業別への拡大(4)自治体や地方経営者団体への働きかけの強化(5)労働界の連携――を追求し、ナショナルミニマム確立ともなる全国一律最賃制実現へ、賃金と最賃を結合させる大衆闘争を強化すべき時代を迎えているといえよう。(ジャーナリスト 鹿田勝一)