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    雇用と処遇守る条例制定を(上)/自治体研究者が私案発表/改正地公法の具体化に対応

     非正規公務員の新たな雇用や処遇について定めた改正地方自治法・地方公務員法の施行(2020年4月)に向け、自治体は今、条例改正と人事・給与システム改修の準備を進めています。総務省は来年2、3月の議会での条例化を想定し、遅くても労使による年内合意が必要といいます。そんな中、NPO法人官製ワーキングプア研究会の上林陽治理事は、非正規公務員を守るための条例私案をまとめました。「制度設計の詳細は条例次第。地方議員や労働組合が取り組む際の参考にしてほしい」と訴えています。

     改正法は自治体の臨時・非常勤職員の大半を、新たに設ける会計年度任用職員に移行させることとしました。これまで法的位置づけがあいまいだった非正規公務員を、法律に規定するのが狙いです。

     非正規公務員にとっては、雇用や処遇がどうなるのかが最大の関心事です。上林氏は「総務省が示すマニュアル(2017年8月)通りでは処遇の改善につながるとは思えない。詳細を定める条例・規則で非正規公務員の権益を保護する必要がある。法違反に至らない範囲で、それは可能だ」と指摘。具体的には(1)給与(報酬)条例案(2)勤務時間条例案(3)任用に関する条例案――の三つの私案を提示しました。

     ※上林氏の私案は官製ワーキングプア研究会のホームページ(http://kwpk.web.fc2.com/)で見ることができます。

     

    ●(1)初任給は正規と同等に/行政職給与表1‐1は論外

     

     人を雇うときにいくら払うかで、優秀な人材を採用できるかどうかが決まります。この点でなぜか総務省は、なるべく安い初任給にするよう指導しています。

     総務省マニュアルは人事院のガイドライン(17年7月)に基づき、行政職給料表1級1号(14万2600円、時給920円相当)を提示。これは一般職高卒者の1級5号(14万7100円)を下回る水準です。

     政府が同一労働同一賃金の旗を振っている時に、高卒初任給よりも低い水準にとどめようという考え。時代遅れの最たるものです。 官製ワーキングプア研究会の上林氏は「総務省が根拠にしている人事院ガイドラインは国の基幹業務職員向けのもので、あくまで目安。法的拘束力はない」と断言。条例・規則では正規職員と同等の初任給を設定すべきと訴えています。

     さらに、正規職員の初任給にプラスされる、修士課程修了者らへの就学年数調整、民間や公務職場で働いたことを勘案する前歴・経験年数調整の適用も必要といいます。

     他方、初任給ではなく、既にその自治体で働いている非正規職員が移行する場合はどうでしょうか。高市早苗総務大臣(当時)は国会答弁で「不利益変更は認められない」と断言しており、賃金の引き下げはできません。少なくとも、現行賃金を維持できる給料表を作ることが求められます。

     正規と同等の初任給設定は合法であり、上林氏は「総務省マニュアルにごまかされてはならない」と強調。交渉に臨む労組にエールを送っています。

     

    ●(2)昇給上限に根拠なし/賃金抑制は不利益変更だ

     

     働き続ければ、経験に基づいて技量は高まります。そうしたスキルアップに応じて昇給するのは当然。それが正規職員を含めて世の中で定着している定期昇給の仕組みです。

     ところが、総務省は昇給について「常勤職員の初任給基準額を上限の目安とすること」などを提示しています。ベテランの非正規職員が正規職員に仕事を教える姿も珍しくないのに、一体どうしたことでしょう。仮に大卒初任給を上限とすれば、何年働いても17万9200円(時給1156円相当)で頭打ちとなってしまいます。

     問題の多い人事院ガイドラインでさえ、職務内容や職務経験などの要素を考慮して、上位ランクに位置付ける昇格を認めています。 上林氏は「上限設定に関する法令上の根拠はない」と指摘。条例・規則には昇給上限を設けない「経験年数給料表」の設定を提起しています。

     上林私案の給料表では、高卒初任給の14万7100円(時給949円)からスタートして、38年目の30万3800円(同1960円)に至るまで賃金が上昇します。

     この点では、今年初めに新たな条例・規則案の方向性を労使合意した兵庫県尼崎市の例が参考になります。「官庁速報」(2月16日付)によれば、会計年度任用職員について、正規職員の給料表を基に、勤務時間で案分した給料表を作成。その上で経験年数に応じた月額を適用し、28年分をカバーする内容。今後条例化する見込みです。

     

    ●(3)支給可能な手当は多い/仕事関連での差別は駄目

     

     改正法によって会計年度任用職員はフルタイムとパートタイムに分けられます。フルタイムには給料と手当を支払うと規定。パートにはこれまでと同じく報酬の支払いと、費用弁償を行い、期末手当についてのみ「支給できる」こととしました。

     問題は、パート職員に対して期末手当以外の手当を支払えるのかどうかです。

     上林氏は「地方自治体は原則として労働基準法が適用される。労基法に規定された賃金を支払わなければ違法となる。さらに、仕事に関わる手当の不払いは明らかに不合理な格差であり、払うべきだ」といいます。

     具体的には表の通り。時間外・休日・夜勤手当をはじめ、地域手当、通勤手当(通勤費)、期末・勤勉手当(一時金)などを列挙しています。

     ただし、これまでの法解釈で、非常勤職員には「手当」を支給できないことにされていたため、工夫が必要。上林氏は、超過勤務手当を超過勤務報酬などと規定することによって支払いを確保する方法を紹介しています。従来、少なくない自治体労使で行ってきた手法です。