世界から核兵器をなくすため、国連で昨年採択された核兵器禁止条約の批准と発効が期待されています。条約の持つ意義と役割について、あらためて考えてみました。
●初の完全禁止条約
Q 条約は何を定めているの?
A 核兵器について、開発、実験、製造、取得、貯蔵、移譲、使用、威嚇など、すべての活動を禁止しています。
国連加盟国の6割を超える122カ国が賛成して採択されました。「核兵器は人道に反する」と訴え続けてきた被爆者や平和を求める運動が実を結んだ結果でしょう。
条約発効には50カ国の批准が必要で、現在は14カ国です。批准に向けてさらに国際世論を高めることが求められています。
●価値観が転換した
Q 条約がなぜ評価されているの?
A 核兵器の完全禁止をうたった、歴史上初めての条約だという点です。廃絶に向けた道筋も具体的に定めました。これまでも保有国を増やさない核拡散防止条約(NPT)や核実験禁止条約がありましたが、完全禁止を目指してはいませんでした。
条約採択への貢献を評価されてノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の川崎哲国際運営委員(ピースボート共同代表)は、「価値観の転換」を挙げています。
「核兵器は誰の手にあっても『悪いもの』という認識が国際社会に広がった。その意味はとても大きい。以前の『力の象徴』から『恥の象徴』に変わった。それを国際条約という形で担保したのが今回の条約だ」と評価しています。
●保有国への圧力に
Q 核保有国が批准しなければ無意味では?
A 確かに、条約を批准しない国には、法的な拘束力は発生しません。しかし、条約ができたことで、保有国にはさまざまな圧力がかかるようになります。
川崎さんは「核兵器を使うことが犯罪になった以上、保有国は一層使いづらくなる。使えない兵器に大金を掛けて持ち続ける合理性を問われる」と指摘。実際、条約が採択された昨年7月以降、世界では30を超す銀行が核兵器製造企業への融資を断っているといいます。銀行は「犯罪の共犯者になりたくない」と考え始めたのかもしれません。
「核兵器保有=犯罪」という流れが大きくなれば、保有国を追い詰めることは可能でしょう。
●北朝鮮の非核化こそ
Q 批准したら北朝鮮の核に対抗できない?
A 核に核(核の傘)で対抗するやり方では、安定した平和は望めません。たとえ戦闘がなくても、一触即発の危うい状態が続く可能性があります。
米朝会談で北朝鮮の非核化がうたわれましたが、実現には時間がかかるとみられています。朝鮮戦争も終わっていない状態で、すぐ近くの日本や韓国に核兵器の配備が想定される米軍基地がある以上、北朝鮮が簡単に核兵器を手放すとは思えないからです。
北朝鮮だけに一方的な非核化を求めるのが困難だとすれば、どうすればいいのでしょうか。
川崎さんは「問われているのは朝鮮半島の非核化であり、一番いい方法は韓国と北朝鮮が同時に核兵器禁止条約に加盟することだ」と強調します。非核化問題を米国と北朝鮮任せにせず、条約の法的枠組みを活用できるからです。
韓国が動けば、米国の核持ち込みは禁止できます。
●政府に批准迫ろう
Q 日本政府はどうせ批准しないんでしょう?
A 安倍政権は同条約を批准しないと言明しています。しかし、米国の核の傘に依存しながら、北朝鮮の核を非難する姿勢では国際的にも説得力に欠けます。
川崎さんは「北朝鮮に対して不信感を表明するだけでは何も進まない。核兵器禁止条約を活用すべきだ」と訴えます。
具体的には、北朝鮮と韓国の非核化プロセスに日本が参加し、北朝鮮の核廃棄を検証することで存在感を発揮できるといいます。
唯一の戦争被爆国の日本が核兵器廃絶の先頭に立つことを、国際社会は期待しています。そのためにも、まずは日本政府による条約批准が必要です。批准を迫る国内世論をどれだけ大きくできるかが鍵で、諦めないことが肝心です。
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