民主主義に基づく主権者教育の研究に取り組む全国民主主義教育研究会が7月27日から3日間、都内で大会を開いた。前文部科学事務次官の前川喜平氏が「憲法と教育」と題して講演し、憲法に基づく道徳教育の可能性や個人の尊厳を重視する教育の必要性を訴えた。
●憲法価値で道徳教育を
特別の科目として道徳が教科化され、本年度から小学校で実施されている。以前と大きく異なる点は、成績評価を行うことと検定教科書の使用だ。前川氏は「他の教科は学問的成果に照らして内容の妥当性を判断できる。道徳の検定基準があるとすれば、憲法しかない。憲法の求める価値に沿っているかどうかで妥当性を判断することは可能だ」と主張した。
道徳の中心は人権、主権者、平和教育であり、教科書に散見されるモラル学習ではないと強調。個人の尊重よりも滅私奉公による自己犠牲の美化など、国家主義に傾倒する教科書に懸念を示した。
地方議会議員が教育内容に介入するケースも後を絶たないとし「道徳の学習指導要領解説では、特定の考えを教え込むことを禁じ、平和、人権教育(の推進)にも触れている」と述べ、この解説を盾にした対応を促した。
●主権者教育こそ主体的に
文科省の通知によると、主権者教育では現実の政治的事象を積極的に取り上げるよう求める一方、教職員の政治的中立性を強調している。「(文科省の方向性は)自分で考えて判断する生徒を育てようとしている。先生が政治的見解を持っていることは生徒にもわかる。主体的に考えない先生が主体的に考える人を育成できるのか」と矛盾を指摘した。
ドイツで行われている政治教育も紹介。「先生は自らの意見とその反対の意見も述べ、生徒に考えさせる。『自分で考えよう』と伝えれば十分だ。政治的中立性とは、批判を封じるための言葉。公平であればよい。先生は権力を忖度(そんたく)しないでほしい」と語った。
●「公共」は高校版道徳
4年後に実施される新学習指導要領では高校の社会科科目の構成が大きく変わる。近現代に焦点を当て、日本史と世界史を一緒に学ぶ「歴史総合」が、主権者教育にとって重要な基礎教科の一つになるという。「特にワイマール憲法を勉強するべき。先進的かつ民主的な憲法を持っていた国民が、ヒトラーの台頭を許し、ホロコーストという罪を犯したことは、人類にとって教訓だ。アジア諸国の中で日本の近代化が優れていたという現政権の歴史観に負けないように」と期待した。
憲法などを学ぶ「現代社会」を廃止して新設する「公共」については、「安倍政権は必ず、滅私奉公的な公共精神を養わせようとする。高校版道徳教育だ」と語気を強めた。
●個人の尊厳を大切に
前川氏は、国家の下に人が存在するという国体主義的な教育と、憲法が重んじる個人の尊厳に基づく教育の二つが、戦後の教育行政の中で今も対立していると述べ、その上で「せめぎ合いの中で国家の方が強くなっている。個人に立脚した教育に引き戻す教育実践を学校で行ってほしい。私からのお願いです」と締めくくった。
〈写真〉「学校は戦前的な風土を残してしまった。克服できるかが問題だ」と語る前川氏(7月29日、都内で)
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