6月23日は沖縄「慰霊の日」。糸満市摩文仁の「平和の礎(いしじ)」をはじめ、県内各地の慰霊碑などで早朝から家族連れなどが戦没者を悼み、平和を誓う。今年も平和祈念公園で県と県議会主催の「沖縄全戦没者追悼式」が開かれ、沖縄県知事の「平和宣言」があり、首相と衆参両院議長があいさつした。
沖縄にとって特別な日だが、今年は例年にも増して注目すべき「慰霊の日」だった。一つはすい臓がんで闘病中の翁長雄志知事。11月18日に県知事選を控え、進退を明らかにしていない。6月定例県議会では帽子を被って答弁に立ったが、この日は帽子を被らなかった。力強く平和宣言を読み上げる姿に再選を目指す決意を感じた人もいれば、炎天下、治療の副作用を隠さない姿を見せたことに痛々しさを感じた人もいた。
●緊張緩和の流れに逆行
そして、翁長知事と安倍首相との「対決」。知事が何を言い、首相が何を言うのか。防衛省が名護市辺野古の海へ8月に土砂投入を開始すると通告している。米軍嘉手納基地所属のF15戦闘機の沖縄近海への墜落(6月11日)と、2日後の飛行再開、そして式典直前の21日に発覚した、米軍によるものとしか考えられない流弾事故。
翁長知事は平和宣言で「(沖縄戦の)悲惨な体験から戦争の愚かさ、命の尊さという教訓を学び、平和を希求する『沖縄のこころ』を大事に今日を生きている」と強調した。そして、戦後73年間、広大な米軍基地が存在し続け、事件事故、環境問題に苦しめられ続けていると述べた。朝鮮半島情勢にも触れて「平和を求める大きな流れの中にあっても、20年以上も前に合意した辺野古への移設が普天間飛行場問題の唯一の解決策と言えるのだろうか」「アジアの緊張緩和の流れにも逆行していると言わざるを得ず、全く容認できるものではない」と日米両政府を批判した。
●自衛隊施設を視察?
一方、安倍首相は「今日、私たちが享受する平和と繁栄は、沖縄の人々の筆舌に尽くしがたい困難と癒えることのない深い悲しみの上にある」と述べつつ、「政府として基地負担を減らすため、一つ一つ確実に結果を出していく決意だ」として、ごく一部の基地返還に言及したのみだった。米朝会談にも辺野古基地建設強行にもF15墜落にも流弾事故にも触れなかった。
追悼式終了後には、記者らに普天間飛行場の辺野古移設を推進する姿勢を強調した。
もう一つ、重要な出来事があった。追悼式には小野寺五典防衛相も出席し、その後、自衛隊の3施設を視察したのである。「県民感情を逆なでする」という声が県民や識者から上がった。
そもそも沖縄戦の教訓とは、軍隊が住民を巻き込んで戦闘を行ったこと、軍は住民を守らないということである。犠牲者を悼み、その教訓を確認する日に自衛隊を視察し激励することが、いかに県民の意識からかけ離れているのか。かつてならできなかったことを堂々と行うところに、現政権の体質と時代の危機が現れているのではないだろうか。
多くの沖縄県民にとって不安と憤りがない交ぜとなった「慰霊の日」となった。(ジャーナリスト 米倉外昭)
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