裁量労働制に関わる不適切データ問題を検証してきた上西充子法政大学教授が6月21日、都内で「労働立法における統計調査の読み方」について講演した。データの真偽を見極めるには「情報は出典を確認する」「人と協力して進める」などが重要と語った。日本労働弁護団が主催した。
●データ撤回までの経緯
安倍首相が1月、国会で「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは一般労働者より短いというデータもある」と発言したことが発端だった。
上西教授は、比較対象となった一般労働者については、未公表のデータを使い、不適切な計算式による加工を施した上で算出された数値だったことを突き止めた。
ネットの連載記事でこの問題を指摘し、立憲民主党の長妻昭衆院議員とメールのやり取りを重ねるうちに、データ問題を扱う野党合同ヒアリングに同行することになった。上西教授の分析を元に、長妻議員が厚生労働省を追及する形で真相究明が進んだという。
●専門家チーム創設を
データを読み解く上で大切なこととして(1)情報は出典を確認する(2)疑問を持ったことは広く世に問う(3)自分の意見をはっきり言う(4)人と協力して進める――を挙げた。問題点を野党議員が共有できたことで、国会での追及もスムーズに進んだ。
上西教授は、過去にも政府のデータの誤りを撤回させた例があると指摘した。2015年に高校の副教材に使用された「妊娠しやすさ」グラフの誤りを有識者らが指摘し、文部科学省が記述を撤回した。
「野党の議員や政策秘書だけで政府のデータを調査するのは限界がある。将来的に立法根拠となるデータを精査するシンクタンクのようなチームを作ることも重要になってくるのではないか」
●立法化の根拠なし
労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制度(高プロ制)については「制度は『労働者が求めているから創設する』と政府は言うが、ヒアリングはずさんで出てくるのは、経営者の要望ばかり」と指摘。労働政策審議会で労働側委員が最後まで大反対したことなどを紹介しながら、「加藤勝信厚労大臣は労政審の答申が『おおむね妥当』としたことを、高プロ制導入の根拠にしているが、法学者や労働弁護団は制度導入の理由がないことを訴えるべきだ」と語った。
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