36協定で定める残業時間の上限を引き下げれば助成金を支給する制度がある。厚生労働省は利用拡大を目指して今年度から内容を拡充したが、関係者の間では「ないよりまし、というより、あるだけ無駄。ばらまきでしかない」との声が上がっている。36協定を形だけ整えて助成金を得ようとする企業への、歯止めが不十分と指摘されている。
●1時間変更でも50万円
この助成金は「時間外労働等改善助成金」。厚労省の労働基準局労働条件政策課によれば、元となる制度は2008年ごろに制定され、その後に名称や内容が変更されて現在に至っている。(1)時間外労働上限設定コース(2)勤務間インターバル導入コース(3)職場意識改善コース――などがある。対象はいずれも中小企業だ。
上限設定コースの場合、例えば現在の36協定の上限が月80時間を超えている職場で上限を45時間以内に変更すれば、150万円が支給される。これまではこのパターンだけだったため、あまり利用されず、昨年度は15件の申請があっただけ(同政策課)という。
今年度からは6パターンに拡充した(表)。これだと、極端な場合、月81時間を80時間に変更しただけで50万円が支給される。
支給条件として「労働時間の記録方法を、手書き台帳からICカードに切り替えた」「新たな機器・設備を導入して労働能率が向上した」「外部の専門家による研修・アドバイスを受けた」など、何か一つの取り組みを行う必要がある。
●チェックの仕組みなし
心配なのは、36協定変更後の運用実態をチェックする仕組みがないことだ。
変更前と変更後の36協定のコピーと、「必要な取り組み」を行ったことを証拠立てる領収書を提出すればいいだけ。仮に、変更後の新たな36協定が守られていない場合、労働基準法違反に問われることはあっても、助成金が取り消されることはないのだという。
今年度から申請できるパターンが増え、利用拡大が見込まれている。ただ、実際に残業削減につながるかどうかは未知数だ。
●乱用広がる恐れ
勤務間インターバル導入コースは、新たに休息制度を作ったり、改善したりした中小企業に対し、ICカードや機器・設備の導入などに掛かった費用を補助する仕組み。11時間以上のインターバルだと、費用の4分の3を補助する(上限50万円)。昨年度は「2千件近くの申請があった」(同政策課)という。今年度からは、一定要件を満たした場合、補助率を5分の4に引き上げている。
上限設定コースと同様、制度導入後の運用実態は問われない。しかも、機器導入が本当に休息時間を確保できる環境づくりにつながったのかを証明するのは困難。「そろそろ設備を更新しようか」と考えた企業が制度を乱用しかねないのだ。
政府が進める「働き方改革」との関係について、厚労省は「関連法案も意識しながら、それに先駆けて中小企業を支援しようという趣旨」(同政策課)だと説明している。問題は、本当に残業削減の役に立つのかどうか。単なるばらまきにならないよう、見直す必要がありそうだ。
コメントをお書きください