東京ではトラック運転者の特定最賃新設の取り組みが実に30年以上続けられている。しかし、業界団体であるトラック協会が合意せず、毎年意向表明を行っているが、労働局への申請には至っていない。成否の鍵を握る業界団体は「適正運賃収受が先だ」と主張している。
新設に挑んでいるのは、都内9産別でつくる東京都トラック運転者最低賃金対策会議。運輸労連、全港湾、建交労、東京港湾、JP労組、自運労、新運転、交通労連、港運同盟と、上部団体の違いを超えて協力している。
運輸業は1990年の規制緩和後、事業者数が1・5倍に増加。無秩序な過当競争と荷主の運賃引き下げ圧力により、低賃金、長時間労働でしのがなければ受注競争に勝てないという、典型的な賃金ダンピングが生じている産業だ。
17年の東京都の道路貨物運送業の年収は400万円で、全産業平均とは100万円を超える格差がある。全日本トラック協会によれば、労働時間の平均(全国)は大型自動車で年間2604時間と、全産業平均より480時間も長い。
対策会議は、特定最賃新設の最大の目的が「過当競争の排除」と「安全輸送の確保」にあると指摘。優秀な人材を確保するためにも新設が必要だと、業界団体や使用者にとっての利点を強調する。
特定最賃の阻いは、地域別最賃より高い賃金の下限を決めることによって、賃金引き下げ競争に歯止めをかけることにある。適用対象となる地域の労働者のおおむね3分の1以上の合意(最賃協定、組合決議、署名)があれば、労働局は最賃審に新設の必要性を諮問しなければならない。
9組織が昨年集約したのは約2万8千人。対象者数は約9万人で、新設の要件を満たすと考えられるが、業種区分について、労働局との見解の相違もある。
今年は、物流部門を抱える他の産別に協力を求めることや、7月の申請段階で、大型自動車による貨物運送に対象を狭めることも検討中だ。
同会議の最賃協定の目標額は、大型貨物自動車運転者で時給1490円、普通で1284円。危険と隣合わせで、公道の安全に直結する職種。地賃に合わせた賃金設定では「業界の発展、人材の確保、輸送秩序が保てなくなる」と指摘する。
●業界団体が大きな壁
申請要件を満たしても、業界団体の壁が立ちはだかる。運輸労連東京都連の山本正人書記長は「トラック協会の役員の中には組合の主張に理解を示す人もいるが、『中小の事業者の納得を得るのは難しい』と言われる。地域別最賃が千円に近づき、中には最賃水準で働かせている業者もある。『最賃引き上げよりまずは適正運賃収受が先だ』の声が強い」と話す。そのため、実際に新設を申請するには至っていない。
昨年宅配便の長時間労働や人手不足が社会問題となり、運賃値上げなど従来にない変化の兆しがあるが、中小企業にまでは浸透していない。「運ぶ側は弱い。(運賃を上げるよう)物申すと契約を切られてしまう」(同書記長)
運輸業は99・9%が中小零細企業。賃金の下落を防ぎ、人材を確保することは業界にとっても有益なはずだが、最賃への抵抗感は強い。経団連が廃止方針を掲げる中、実現の見通しはいまも見通せないでいる(つづく)。
〈写真〉東京都トラック運転者最賃対策会議が毎年改定しているパンフレット
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