飲食店の調理場で働く20代の労働者が、料理長からすれ違いざまに殴られたり、包丁を突きつけられたりするなどのパワーハラスメントを受け、ストレスで体調を崩した。朝起きるのがつらくなり少し遅刻をすると、「自己管理ができていない」と責められた。
●対応早かった会社側
月100時間近い時間外労働もあったが、労働時間が改ざんされて月60時間分の固定残業代以上は一切払われなかった。「辞めたい」と言っても無視され、「辞められないなら失踪しよう」と思うほど追い詰められた。
心配した親が「泣き寝入りする前に1人でも加入できる労働組合に相談しよう」とプレカリアートユニオンの名をあげ、一緒に事務所へ来てくれた。親は、テレビ番組「ガイアの夜明け」で「アリさんマークの引越社」と闘う当ユニオンの姿を見ていたようだ。労働組合でできること、必要なことを本人に説明したところ、勇気を出して、組合に加入。
団交を申し入れた後、会社は交渉日までにパワハラが再発しないよう対策を取っていた。1回目の交渉で、パワハラの再発防止策、加害者との距離の確保、パワハラ相談窓口と対応の整備、研修の実施、未払い賃金の支払いで合意。離職率の高い職場の体質を変えること、労働時間を正しく把握し賃金を支払うこと、長時間労働を抑制することも約束した。
加入通告から1カ月以内に解決のめどが立った。泣き寝入りしなかった勇気が職場を変えた。
●会社が嫌がらせで提訴
新卒で入社した会社から、社宅費用の返還を求める裁判を起こされた例もある。
神奈川県を中心にドラッグストアや調剤薬局を展開する会社で正社員として働く薬剤販売員のAさんは、結婚を機に独身寮から引っ越そうとしていた。社宅は、結婚を機に退去するルールだったが、シフト勤務や結婚の準備などで転居時期がやむを得ず遅くなった。
すると、会社はAさんに了解もなく、入籍日以降の社宅費用(実費全額)である20万円以上を1カ月分の給料から天引きした。もちろんこれは労働基準法24条に反する違法行為だ。
困ったAさんは労働基準監督署に相談し、約20万円の賃金不払いを申告した。労基署の指導により、一度は会社から返金されたものの、その後返還を求める督促状が会社から届いた。
問題解決のため、Aさんはメディアで紹介されていたプレカリアートユニオンに加入。会社は団体交渉の実施には合意したものの、Aさんと身元保証人である父親や親戚を相手取って、約20万円の返還訴訟を提訴した。
●「パワハラ許さない」
独身寮を退去して賃貸住宅に入居すれば、会社はAさんに家賃補助を行うことになる。入籍日以降の独身寮実費と、退去していたら支払ったはずの家賃補助との差額は、わずか数万円。それにもかかわらず、わざわざ、身元保証人の父親も含めて裁判で訴えるというのは、嫌がらせ以外の何ものでもない。
Aさんは「パワハラをなくし、15分単位で切り捨てられている残業代も適正に払わせたい」と、職場の改善を訴えて社前行動に臨んでいる。(プレカリアートユニオン委員長 清水直子)
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