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    労働時評/中小ベア春闘広がる/2年連続で大手の率超えへ

     中小、非正規春闘が前進している。「格差是正」「人材確保」を背景に各産別が中小支援を強化。ベア獲得組合の増加と、昨年以上の妥結水準で、ベア率が2年連続で大手を超えるなど、広がりを見せている。

     

    ●ベア獲得組合が増加

     

     4月6日の集計で、妥結2129組合のうち、ベア獲得組合は1075組合(50・5%)で、昨年の484組合(40%)より591組合も増加している。

     全体の回答水準(4月17日)は3479組合の加重平均で6128円(2・10%)、ベアは1612円(0・53%)であり、昨年より282円(0・08%)の微増である。

     中小は春闘後半でも回答水準が下がらず善戦。昨年33年ぶりに中小ベア率が大手を上回った勢いは今春も継続されている。300人未満のベア率は0・62%(1551円、昨年プラス178円)で、300人以上は0・52%(1617円、昨年プラス290円)である。中小は額では低いが、ベア率では2年連続で大手を上回っている。連合の神津里季生会長は「昨年と同様の成果を期待し、最後まで奮闘を呼びかけている」とげきを飛ばす。

     

    ●各産別で中小ベア前進

     

     「格差是正」「大手追随からの構造転換」を掲げ、中小春闘は前進している。

     〈中小79%に大手同額回答波及 電機連合〉 産別統一闘争で昨年プラス500円と、ベア1500円の春闘相場を形成。大手と同額回答(4月17日)は261組合のうち中小を含む206組合(79%)に波及させている。昨年の83%波及に比べやや低下傾向も指摘されているが、産別の波及力は強い。妥結基準を設定する統一闘争の効果を見せた。野中孝秦委員長は「産別統一闘争で業績の厳しいところも賃金を引き上げる効果を発揮した」と評価している。

     〈親組合が中小経営に要請効果 基幹労連〉 鉄鋼、造船などの基幹労連は先行大手で昨年プラス500円、ベア1500円を獲得し、145組合平均(4月3日)では1480円と波及力は強い。中堅の業種別組合では2000人以上が1540円、1000人以上が1745円、999人以下が1814円など高い賃上げを獲得している。神田健一委員長は「グループ親組合が関連会社経営者に賃上げの要請行動を行った成果。人材確保などの反映でもある」。

     〈販売では大手超え 自動車総連〉 異例春闘となった自動車。日産は2年ぶり3千円の満額(昨年プラス1500円)を獲得し、本田は1700円(同100円)など、回答は例年以上に分散した。大手13労組の平均ベア(4月3日)は1750円。業種では販売110組合が昨年を316円上回る1773円でメーカーを上回っている。高倉明会長は「中小も昨年を上回り、格差是正の成果だ」と語る。労使でベアを非公開としたトヨタ回答の社会的影響も明らかにすべきだろう。

     〈個別賃金で成果 JAM〉 「千載一遇のチャンス」(安河内賢弘会長)と態勢を強化し、個別賃金を重視。35歳で99人未満は現行25万6968円を3124円引き上げ、大手の1167円より高い賃上げの成果をあげた。妥結平均(4月16日)も5567円で昨年を348円上回る。ベアは492組合平均で1642円と、大手金属産別の回答を上回っている。

     〈金属超える産別相場を波及 UAゼンセン〉 産別妥結権と大手58組合の中核共闘で相場形成と波及を重視。妥結水準(4月2日)は6441円(2・38%)、ベアは204組合平均で1765円(0・64%)と昨年を578円上回る。300人未満の賃上げ率は2・39%で全体平均を上回った。「賃上げの材料には事欠かない。今年やらずしていつやるのか」と松浦昭彦会長。高相場を形成し金属回答を超えた。連合集計(6日)でも流通・サービスは昨年比単純平均1060円増と、金属の同55円増を大きく上回る。

     〈中小支援を強化し、成果 フード連合〉 中小251組合で「中小労組春闘推進会議」を設置。100人未満のベア(4月17日)は1198円で、300人未満の1015円を上回る。グループ親組合などが関連する中小労組の支援体制を強めた。松谷和重会長は「同業他社の様子見もあったが、中小支援を強めた成果」と語っている。

     

    ●初任給、非正規で成果

     

     各産別とも人材確保へ初任給引き上げや非正規の賃上げで成果が見られる。

     電機連合では高卒初任給を30歳・標準労働者と同じ3000円増を要求、妥結は同水準の1500円増で16万3500円に引き上げた。JEC連合は平均2217円、印刷労連2389円増など、正社員を上回る賃上げだ。

     非正規では「人材流出の防止」へ高めの賃上げが目立つ。UAゼンセンのパート時給引き上げは平均26・5円、昨年比で4・2円のプラス。賃上げ率も2・82%で、正社員の2・38%を超えている。

     

    ●JMITUが健闘

     

     全労連加盟のJMITUが147組合(4月18日)の加重平均で6791円(2・34%)と昨年を934円上回る。高めの上積み回答だ。スト権確立は80%、実施は45%と半数に及ぶ。笠瀬隆司書記長は「建設関連やIT関連での経営改善やスト権行使、産別団交の成果」。

     全労連は350組合(4月6日)の単純平均で5567円(2・01%)と、昨年比285円増。非正規時給は22・2円、昨年比2・5円増である。上積み回答へ追い上げを図る。(ジャーナリスト 鹿田勝一)